帰ってきた男達 11

浦島太郎は、口を開きました。
浦島太郎「金時くん、早速だが何して遊ぶ?私はね、最近スーパーファミコン、というマシンに凝ってるんだ。こいつは、スゴイぞ。何でも、出来る!こいつを使って、桃太郎電鉄をやろうか?それとも、いただきストリートがいいかな?何にせよ、勝つのは私なんだ。申し訳ないがね。」
金時は、目の前で何が起きているのか、把握出来ませんでした。
金時「浦島殿…。申し訳ないが、私には貴殿が何を仰っているのか計りかねる。ルシファー殿。この浦島殿が、本当に適任なのだろうか…?」
ルシファーは、素っ気なく答えました。
ルシファー「そうだ。ただ実戦経験は、まだない。金時、お前が鍛え上げろ。」
金時は、思わずカッとなりました。
金時「ルシファー殿!あなたは、私達地の者に死ねと仰るのか?」
ルシファーは取り合わず、淡々と答えました。
ルシファー「才能に、経験など問題にならん。こいつはな、私とポーカーをした。どうなったと、思う?」
金時は、どう答えていいのかわからず、黙っていました。
金時「…。」
ルシファーは、続けました。
ルシファー「三度、やった。三度とも、こいつが勝ったよ。信じられるか、金時?」
金時は、ルシファーの真意を、掴みかねていました。
金時「勝負は、時の運…。勝つ時もあれば、負ける時もあるでしょう。」
ルシファーは、苛立ちを隠さず、言い放ちました。
ルシファー「それは、凡俗の話だ!私に、時の運など存在しない。勝つのは、常に私だ。その私が、負けたのだ。それも、人間如きに…。」
金時は、尚も食い下がりました。
金時「それは、ゲームの話でしょう…?私は、実戦の話をしているのです。戦場に立ったこともないのに、使い物になるかどうかは…。」
ルシファーは、激昂しました。
ルシファー「人間風情が、この私に意見するのか!貴様らは、黙って決まった通りに動けばいい。賭け事は、戦と同じだ。実力だけでも、勝てん。運だけでも、同じだ。」
金時は、頷きました。
金時「確かに、それはその通りでしょう…。」
ルシファー「そして、私に勝った…。いいか?私に勝てる者など、人間はおろか、天使にも悪魔にも、いや神にだって存在しない。その、私に勝ったのだ!…物分かりの悪い貴様に、もう一つ教えてやる。」
金時の中では、炎が渦巻いていました。。
しかし、表には見せません。
ルシファー「こいつはな、人とはゲームをしないんだ…。」
金時は地上に残してきた、配下の者達の顔を、一人一人思い出しました。
ルシファー「こいつは頭の中に、何人、いや何千人、それでも足らんな…。そいつらのロジックを、構築している。そいつを相手に、遊ぶんだ。凡俗の目には、一人遊びしている、キチガイにしか見えんだろう。だが、実際は違う。こいつは、目に映った相手のロジックを、瞬時に読み取る。そして、それを再現できる…。」
金時はうっすらと、恐ろしくなってきました。
金時「それは、つまり…。」
ルシファーは、ニヤリと笑いました。
ルシファー「相手の手を、全て読めるという事だ。適任だろう?」
金時は、どう返事をすればいいのかわからず、浦島太郎の顔を見ました。
浦島太郎「地の者達と、地獄の軍団の戦力比は、1:3といったところだろう。しかしね、金時殿。今地獄には、作戦立案のできる者がいないんだ。蛇が、あの伝次郎に滅ぼされてしまったから。そして、地獄で力を誇っていたのは、このルシファーくんとサタンだが、サタンは随分前に、キリストにやられた。あんなの、インチキみたいなものだが、負けは負けだ。残された連中の中で、雑魚どもを率いれるとしたら、そうだな、三体か。バァル・ゼバブ、アシュタロト、アスモダイだな。だがね、そんな連中たいしたことない。金時くん、君の力ならバァル・ゼバブなんて、物言う石が無くても、へっちゃらさ。そして、海鳴将軍なら、アシュタロトとは互角だね。アスモダイに桃太郎かあ、厳しいなあ…。兵の勢いで優らないと、勝てないだろうな。何にせよ、問題になるのは、私の実戦経験だ。こればかりは、どうにもならんよ。だからね、金時くん。これから、唸るほど小競り合いを、やらかそう。その中で私は、生き物がどのくらいで死ぬか、計るから。楽しみだなあ。戦ってのは、あれだろう?負けると私自身が、滅ぼされるんだろう。こんなに、心踊る事はないよ。さあ、早く始めようじゃないか!」
天神様は、厳かな調子で、口を挟みました。
天神「金時よ…。全員、という訳にはいかんが、我らの蔵より天の武具を、持っていくがよい。そして、我らの力の源でもある宝珠も、幾つかは貸してやろう。」
金時は、喜びました。
金時「それは、ありがたい!兵達も、無駄死にせずに済みます…。」
天神様は、表情を変えずにいいました。
天神「宝珠の近くで戦えば、体には力が湧き、心には気が充ちる。上手く、配分してやれ…。そして、この大戦を戦い抜くのだ。」
金時は、頭を深く下げました。
金時「皆様のお心遣い、誠に痛み入ります。この金時、早速地の果てへと赴きたい、と存じます。必ずや、吉報をお持ちいたしましょう。それでは、しばしお待ち下さいますよう、お願い致します…。」
金時は雛鳥の間を、後にしました。