オープニング…
「マクロス・プラス〜Information high〜」 CMJK
大学生の金代健次は、街中を自転車で疾走している…。
「くっそ!!今日も間に合わねぇ!」
彼の自転車は、MIYATAのロード・バイク(ランドナー)。
シックな、深い緑の車体のアイガー…。
一見カジュアルに見えるカーキ色のカーゴパンツは、rin project製のサイクル・パンツ。
上着は、re coqの黒とオレンジのジャージであった。
…頭にはBuffの黄色のヘッド・ウェアに、サイクル・パンツと同じくrin project製の黒のカスクを着け。
それにCHROMEの黒と灰色のメッシュの、ビンディング・シューズ。
TIMBUK2の紺、赤、黄の、カラフルなメッセンジャー・バッグを背負っていた…。
「この野郎!どきやがれ!!」
道路と車の狭い隙間に滑り込み、車に幅寄せして走るスペースを確保する。
車は、思わずクラクションを鳴らした。
「悪りぃな!!今なら、まだ間に合わねぇが…。」
健次は中指を立てて、走り去る…。
桝谷晴麗(ますたにうらら・ラフィーネ)は、大学で講義を受けていた。
教授は小さな声で滑舌も悪い。
どうやら内気で、人見知りらしい…。
だが、講義の内容は抜群に面白かった。
単なる法知識の羅列ではなく、一つ一つの法が人間の生活に何故?必要なのか?
そしてまた、一つ一つの法がお互いにどう関連しているか?を丁寧に解き明かしてくれてたのだ。
今日も内容は非常に充実していて…。
正直晴麗にとっては、弁護士になる上で非常に有利な自分にとって有益である事を見抜いて選択した講義だったが、いつの間にか「法」というモノの知的な遊戯性に引き込まれている。
晴麗がノートに細かく講義の内容を書き込んでいると、講義室の扉がバン!と音を立てて開いた。
「スイマセン!遅刻しました!!」
「ああ、いいからいいから…。早く席に着いて。」
また、あの男だ…。
金代健次。
彼は遅刻の常習者で、もうその話題で有名人になっていた。
「自転車バカ」
それが晴麗が、心の中で彼に付けたアダ名である。
晴麗はせっかくの知識欲を満たせる楽しい時間が、こんなに野暮な男に中断されるのは我慢がならなかった。
晴麗やその他の学生達からの憎しみの視線を浴びながら、彼は席に着いた。
その日のお昼…。
晴麗は学食でスパゲッティ・ナポリタンを食べていると、何と!!あの男「自転車バカ」がいるではないか!
見ると手にはプレートを持ち、「何か」を探す様にキョロキョロとしている。
目を逸らそうとした瞬間、両者の目が合ってしまった!!
すると何と、彼は晴麗の方に向かって来るのだ。
「…アンタ、名前は?」
彼のプレートには、カツ丼が大盛りで乗っている。
「バカの大食い」
晴麗の頭に浮かんだ言葉だ…。
「アナタね…、人に名前を聞くのに。相手に先に尋ねるなんて、そんなバカなコト許されると思ってるの?」
キツい言い方をしていると、自分でもわかっている。
ただ、積もりに積もったうっぷんがそうさせただけだ。
「あ?何だよ…。よくわかんねぇけど、俺は健次。金代健次っつうんだよ。もうみんな知ってるんだと思ってたんだが…。」
晴麗は何てバカな男だろう!と考えて、もう一歩で張り倒すトコロであった。
それをグッと飲み込み、彼女は尋ねる。
「で…、何の用よ?」
健次は晴麗の向かいの席に腰を下ろすと、カツ丼の大盛りを食べ始めた…。
そして…、食べながら話した。
「ノート写さしてくれよ。」
晴麗の頭に瞬時に閃いた言葉は、こう。
「試験の点取り虫」
「俺の見立てじゃさ…、アンタが一番熱心に授業を聞いてるよ。だからきっと、一番いいノートを持ってるだろう…。」
晴麗はもう本当に頭にキてしまって、どうやってこの不埒者を懲らしめるかしか頭に無かった。
「ありがと…、でもね…。」
健次は手で制した。
「待てよ…、最後まで聞け。俺はあの講義が本当に受けたいんだ、面白いからな。だが起きられん。時間がどれも早過ぎる…。だが講義の内容は知りたいんだ。面白いからな。だからアンタのノートを借りたい。内容が知りたいんだよ。面白いから…。」
晴麗の中で、何かムクッと起き上がる。
それはかつてもう、決別したハズの感情だった。
「じゃああなた、ここで土下座して…?みんなの前で、私に謝って。」
すると、した。
健次は椅子から立ち上がると、そのまま両膝を地面に着き頭を下げた。
「スマン!!寝坊なんてのは、俺の怠惰さでしかない事は重々わかってる。だが…。」
晴麗は、思わず健次のほほを張ってしまう。
「バカ!!止めてよ!!私に、恥をかかせる気!?」
学食は騒然として、中々静まらなかった。
そんな事があって、晴麗は健次にノートを貸す日々が始まる。
健次は相変わらず毎回遅刻するし、晴麗がその事にイライラし続けている事も変わらない…。
ある時イライラが絶頂に達した晴麗は、健次に健次のノートを見せる様要求した。
あのノートは、私が丹精込めて造りあげたノートなんだ…。
教授の意見をキチンと理解して(それが一教授の主観であっても)、正確に記述する。
それが、今の私に出来る精一杯の事なんだから!!
「取り敢えず、昼メシだ!!学食へ行こう…。」
晴麗は、スープ・セットを頼む。
健次は、晴麗が確認した限りカツ丼の大盛りしか食べていない…。
席に着いた彼女は、健次のノートを受け取りテーブルの上に開いた。
すると、そこには…。
先ず晴麗の書いた内容が、全て正確に書き込まれていた。
誤字脱字まで、書き写してある。
そして何と…!!
そこに倍以上の量で、批判が加えられていたのだ。
批判は、的外れな事もあるし明らかに見当違いの内容もある。
しかしそれは間違いなく、彼の…健次くんが自分で考えた意見であり主張であったのだ。
晴麗は、ある事実に気が付く。
「あなた…。あなたこれ書いてるから、朝起きられないんじゃ…?」
健次は既にカツ丼の大盛りを、ご飯粒を一粒も残さずに食べ終わっている。
勿論タクアンも味噌汁も…。
健次は腕を組み、ある種の威厳を湛えて言った。
「知らん!!」
晴麗の中で、「何か」が動き始めた…。
テーマ曲…
「Children go where I send thee」 The Fairfield Four