「お母さん、デートするからお金ちょうだい…」
小学6年生の良太は…、台所に立つ母にそうねだった。
…「何ゆってるの良太、ウチには余計なお金はありませんよ!!」
良太の母親はそっけなく突っぱねる、…いつもならすぐに引き下がる良太だが用件が要件だけに退かない。
「勝美がさ今度誕生日なんだよ、そのプレゼントを買いたいんだ…」
良太の母は…、イラ立ちを隠さない。
…「鈴代さん家はお金持ちなんだから、何でも好きなモノ買ってもらえるでしょ?ウチはお金無いんだから、…そんなコトする必要ありません」
良太はいつも想う、お母さんは本当にぼくを愛してるんだろうか…?
「そ〜ゆう問題じゃないよ…、プレゼントって気持ちでしょ?…たくさん出してってゆってるワケじゃないんだから、頼むよ」
いくら親でもゆってはいけないコトもある、…だが良太の母はその一線を越えてしまった。
「そんなに買って上げたいなら、自分のお小遣いから出しなさい…。毎月々々…、ちゃんと上げてるでしょ」
…良太は「お母さんツまらないな」と想う、しかしこれは粘っても無駄だろう。
良太は居間にゆきTVを点けた、…内容が頭に入って来ない。
確かにお小遣いはもらってる、でも月々500円のお小遣いではどう貯めたってデートは出来ない…。
そりゃあそうさ…、勝美は欲しいモノ買ってもらってるだろう。
…でもそんなの関係ない、お母さんは女性なのにそんなコトもわからないのかな?
良太は取り留めも無く想いを巡らせる、…しかし諦めはつかない。
せめてプレゼントだけでも、そう想い「いっそ万引きでもするか」そんなコトを考えた…。
やがてお父さんが帰って来る…、お父さんが帰って来れば夕ごはんだ。
…恋に悩んでゆてもおなかは減る、お父さんは上着を脱ぎ母親に渡す。
すると母は、…お父さんにこうゆった。
「お父さん良太がね、"デートするからお金を出してくれ"なんてゆ〜んですよ…。まだ小学生だってゆうのに…、あなたからちゃんと叱ってやって下さい」
…良太は「ゲッ」と想った、お父さんは母に比べればあまり怒らないが。
いざ怒り出すとどんな言い訳も通用しない、…覚悟を決める良太にお父さんはゆう。
「へ〜どの娘だ、良太…?」
拍子抜けしながら…、良太は答えた。
「…勝美だよ、鈴代勝美」
お父さんは、…嬉しそうに笑う。
「あぁ鈴代さんトコのお嬢さんか、良太お前なかなかいい趣味してるな…。もう…、デートに誘ったのか?」
良太は…、悔しくて泣きそうだ。
…「まだだよ、だってお金無いモノ」
お父さんは、…財布を取り出すと良太にその場で3000円差し出す。
「よし、これでうまく演れ…」
呆気に取られた良太は…、ボソッと呟く。
…「でも、返せないよ?」
お父さんは、…大笑いして答えた。
「このお金を返すぐらいなら、しっかり口説き落とせ…。あと結果は直に俺に報告しろ…、それでいい」
…良太の心に、再び希望の光が灯る。
「ありがとうお父さん、…大切に使うよ」
良太のお父さんは、真面目な顔でゆった…。
「良太…、恋愛は城攻めと同じだ。…命懸けで演れよ」
そしてデート当日、…良太は待ち合わせ場所である駅に向かう。
待ち合わせとゆ〜と遅刻しがちな良太であったが、この日は気を遣って10分前に到着してゆた…。
「早いね…、もう来てたんだ」
…5分程すると勝美がやって来る、良太は白のTシャツにジーンズそれにデニムのジャンパー。
勝美は紺のワン・ピースの上に、…レモン・イエローの薄いカーディガンを羽織ってゆる。
良太は先ず、自分のゆきつけの中古ファミコン・ショップに案内した…。
棚から一つずつファミコン・カセットを取り出しては…、勝美に評論を聞かせる。
…「良太くんのイチバン好きなカセットは、どれなの?」
勝美の問いに、…良太は待ってましたとばかりに答えた。
「そりゃあモチロン、ドラゴン・クエストⅡだね…。これは面白いよ…、悪い神さまをやっつける為にたった三人で旅をするんだ。…最後険しい山の上に闇の神殿があるんだケド、その山道が厳しくて。何度もやり直して、…ようやく辿り着くんだ。でもそこが面白いのさ、勝美はファミコン持ってる…?」
事実をありのままに答える勝美だったが…、良太にはあまりに残酷だった。
…「持ってないよ、でもこの前スーパー・ファミコン買ってもらったから」
少し時間が経ってお昼時、…良太は家族でゆきつけのお好み焼きやさん「みさと」に勝美を連れてゆく。
「ベビースターもんじゃ一つね、勝美は何にする…?」
メニューを眺めてゆる勝美も…、すぐに決まった。
「私、…紅生姜焼きにしようかな」
…すぐに器に盛られたもんじゃとお好み焼きの素が運ばれる、鉄板が熱くなるまでよくかき混ぜて待つ。
「勝美はさ…、お好み焼き焼いたコトあるの?」
勝美は、首を横に振った…。
「いつもお母さんにやってもらってるから、…良太くんはあるの?」
…良太は、誇らしく胸を張ってゆう。
「ウチは…、自分の分は自分で焼くんだ。もし何なら、勝美の分も焼こうか…?」
笑顔になる、…勝美。
「…ありがと、良太くんは偉いね何でも自分でやって。私も見習わなきゃ…、自分でやってみる」
良太は勝美を…、「しっかりした娘だな」と想った。
しかし、それは口には出さない…。
お昼を食べた二人は、…ゲーム・センターに向かう。
…良太は、得意な「モンスター・ランド」に100円入れて。
たちどころにクリアしてみせた、…しかし勝美はそれ程面白がっていないようだ。
それはそ〜だろう、単に良太がゲームをクリアしただけのコトだから…。
良太は少し悩み…、U.F.O.キャッチャーのコーナーに勝美を連れてゆった。
…これは効果があった、勝美も女性だけあって。
可愛いぬいぐるみやキー・ホルダーには、…興味が湧く。
「私、このくまのぬいぐるみ欲しいなぁ…」
それには良太が困った…、良太はビデオ・ゲーム専門でU.F.O.キャッチャーは手を出したコトがないのだ。
…良太がまごまごしてると、勝美は自分のお財布から100円玉を取り出しU.F.O.キャッチャーに入れる。
「U.F.O.キャッチャー得意なんだ、…見ててね」
だが勝美の操作するクレーンは、ぬいぐるみを取り損なった…。
もう一度トライするが…、それも失敗に終わる。
…良太はそれをわきで眺めてゆて、「あぁそ〜ゆうコトか」と何とな〜くやり方はわかった気がした。
良太がお金を入れて、…U.F.O.キャッチャーのアームを操作すると一発でぬいぐるみが獲得出来る。
当然だがそれは勝美に上げた、くまのぬいぐるみはキー・ホルダーになってゆて…。
勝美は…、それを肩にかけてゆるバッグに留める。
…「ありがとう、とっても素敵な誕生日プレゼント」
良太は、…慌ててそれを否定した。
「いや、もっとちゃんとしたのを考えてあるから…」
驚いたように…、目を丸くする勝美。
…「このくまさんでもう充分なのに、ゴメンね良太くん」
良太は、…カラッと笑った。
「ケチ臭いコトゆうなよ、あと二日でもう誕生日なんだろ…?」
勝美は自分の境遇が恵まれてるのを知ってゆた…、そして良太がそ〜ではないのも。
…ゲーム・センターをあとにする頃、まだ陽は明るかった。
「このあと、…ど〜するの?」
勝美の問いに、良太の心は緊張に引き締まる…。
「おもちゃ屋さんにゆこう…、そこでプレゼントを買う。」
…勝美の心に悦びが湧いた、遂に来るべき時が来たのだ。
おもちゃ屋さんの扉を開ける良太、…ドキドキする勝美。
「良太くんは、一体何を贈ってくれるのだろう…?」
おもちゃ屋さんに並ぶ無数のおもちゃには目もくれず…、良太は勝美の手を引き真っ直ぐに奥へと向かってゆった。
…「買って贈るのが本当だと想うんだけど、さすがに何の絵柄がゆいのか選べなくて」
振り返った良太の向こう側にあったのは、…スヌーピーのジグソー・パズルである。
「ぬいぐるみはさすがに手が出ないから…、これで勘弁してよ」
…ぬいぐるみはもうもってゆるのだ、それも子供ではとても買えない大きなモノを。
「ジグソー・パズルなら遊べるし、…飾れるからいいかなと想って」
3種類ある絵柄の中から、勝美は迷いに迷って決める…。
迷うのがこんなに気持ちゆいとは…、想像したコトもなかったのだから。
テーマ…
「Weather report」 フィッシュマンズ