…夏期講習の英語の授業も、今日で三日目だ。夏期講習の、…同じ講師による授業は。三日間しか続かないから、良太が勝美に会えるのは今日が最後である…。
(勝美さん…、ど〜想ってんだろ?)
…良太は何度か、隣の席の勝美の様子を伺うが。当然のコトながら、…勝美は授業に集中していた。そして二時限の授業が終わり、良太は勝美を誘って…。二人で…、いつもの公園に出かけるのである。
…「勝美さんは、将来の夢とかってあるの?」
勝美のお弁当を良太が覗くと、…今日は。肉じゃが、ほうれん草のおひたし、れんこんのきんぴらで。ごはんには、のりたまふりかけがかかってゆた…。
「保育士を目指してるんですよ…、私」
…勝美さんにぴったりじゃないか、良太はそ〜想う。
「子供好きなんだ、…勝美さん」
勝美は、照れ臭そ〜に口に手を当てた…。
「スーパーにお買い物にいくと…、ちっちゃいお子さんを連れたお母さん。…いらっしゃるじゃないですか、見てるとすごく可愛いなぁって」
それを語る、…勝美の瞳は輝いてゆる。やっぱり彼女だな、と良太は覚悟を決めた…。
「話は変わるケド…、勝美さん恋人いる?」
…良太は、一勝負打って出る。
「ええっ、…え?」
黙り込む勝美、お弁当を食べる手も止まってしまう…。
「そりゃゆるよね…、こんなに可愛いんだモノ」
…フられて気まずくなっても、ど〜せ今日が最後だ。
「い、いないです、…誰も」
良太の心に、希望の光が差し込んで来る…。
「ウソだぁ〜…、絶対いるよ」
…念には念を入れて、確認する良太。
「茶化さないで下さい、…私モテないですから」
良太は、いざこの時を迎えるまで…。もっと自分は緊張するだろ〜と思っていた…、だけれど実際にはするすると自然に言葉が溢れて来た。
「じゃあさ、…勝美さんもしよかったらおれと付き合ってよ」
ぴくっと、反応する勝美…。
「あの…、私」
…良太は、バック・パックからボール・ペンとメモを取り出すと。自分のおウチの電話番号を、…書き記す。
「いきなり返事をお願いしても、困るでしょ…?だから…、気持ちが固まったら電話して。…もし迷惑だったら、無視してもらって構わないから」
なかば強引に、…勝美の手に良太はメモを握らせた。
「あの、だって私…」
何だか泣きそ〜な勝美を残して…、良太は一人帰ってしまう。…勝美は午後も授業を受けるが、良太は午前だけである。帰りの東武野田線に揺られて、…良太はぼんやりこんなコトを考えた。
(あれだけ可愛いと、かえってモテないモンかもわからない…。だって誰だって…、あんなに可愛ければ。…恋人がいるに決まってる、そ〜考えるに違いないから。それで、…諦めちゃうんだろ〜な)
それだけ思い浮かべると、良太の頭の中は真っ白になる…。耳に挿したイヤフォンから…、また奥田民生さんの「さすらい」がかかった。…漠然と流れてゆく「さすらい」と、車窓の向こう側の景色。うまく演れたのかど〜か、…良太はそれ程気にならなかった。
「なるよ〜に、なるさ…」
情熱的に歌いあげる奥田民生さんの歌をバックに…、良太は何だか悟りを開いたよ〜な心地である。