再臨物語again〜春馬町より愛を込めて〜 その21

良太と勝美が、…初めてキスしてから。…半年以上の月日が流れ、翌年の大学の合格発表の日。

「829、830…、832あった。おれ、受かっちゃてるよ…。何だ、…しょ〜もない大学だなぁ」

…結局、あれからろくすっぽ勉強もせず。大した考えもないまま…、ランクを落として。見事三流大学に、合格した良太である…。

「あっお袋、…おれ大学受かったから。…お祝い、い〜よそんなの。まぁそこまでゆ〜なら…、"来福亭"でビール飲ませて」

母親に、良太は電話で合格を報告した…。合格さえ確認してしまえば、…キャンパスなどには。…何の興味も良太にはない、早々に立ち去って。最寄り駅の…、駅前のゲーム・センターに潜り込んだ。

「どれにしよ〜か、知ってるゲームないし…」

勝美から、…Jazzを教わって以来。…良太の嗜好が、変化しているのは確かだが。それにしても…、最近面白いT.V.ゲームがリリースされなくなった気がする。

「よくわからんケド、シューティング・ゲームなら遊べるだろ…」

説明書きをよく読まず、…お金を入れる良太。…スタート・ボタンを押すと、戦闘機を選ぶ画面に切り換わった。ど〜やら…、第二次大戦の時代の空中戦のT.V.ゲームらしい。適当に選びゲーム本編が始まる、初めてだから勝手がわからない…。何となく進めてゆくウチ、…二面の中ボスで撃墜されてしまった。

…「ま、こんなんだろ〜ね」

良太は…、席を立ち。自動販売機で缶コーヒーを買って、「セブン・スター」に火を点ける…。店内を見回し、…煙草の煙を吐き出した。…何とかお手軽に憂さを晴らしたかったのだが、ゲーム・センターには。も〜自分の居場所はないのかもな…、と良太は想う。

「勝美さん、合格出来たかな…?」

ゲーム・センターを出ると、…良太は両耳にイヤフォンを挿し。…ウォーク・マンの再生ボタンを押した、途端に流れ出す華麗な即興演奏のJazz。

(よしよし…、ちょ〜どSonny Rollinsさんが始まったぞ)

良太の最もお気に入りのジャズ・メンの一人が、Sonny Rollinsである…。勝美の、…合格発表は来週だ。…勝美本人は、「自信が無い」と語っていたが。それは…、単に勝美さんが控えめな性格だからだろ〜。と良太は予想してゆた、自分と違って…。勝美さんは、一生懸命勉強して来た…。そのぐらいは、…いくらおれでも察するさ。…Sonny Rollinsのとるソロ・プレイに、背筋がゾクゾクする良太。

「現在のおれには…、勝美さんとJazzだけが現実なんだ」

勝美さんといる時、Jazzを聴いてゆる時だけは…。自分が確かに存在してる、…と実感出来る。…だがそれは、このウォーク・マンを耳にする。自分だけのお話であり…、電車の中の周りを見渡してもどこにも見出せなかった。だが、良太は決して絶望していたワケではない…。大学に入学してしまえば、…これからはアルバイト出来るのだ。…そ〜すれば、勝美さんにお金をかけてあげられるし。JazzのC.D.や…、関連書籍を買い漁ったり出来るのだから。既に、「勉強はカタチだけでい〜」と決めてかかる良太…。ど〜せ三流大学だ、…学ぶ程の内容はありはしまい。