再臨物語again〜春馬町より愛を込めて〜 その22

「二人揃って…、合格出来てよかったですね」

合格発表から、二、三週間経って…。今日の良太と勝美は、…権現堂公園でお花見である。…トート・バッグからお弁当箱を取り出し、包みを開く勝美。

「おれは…、大して勉強してないモノ。単に、ランク下げただけだから…。でも、…勝美さんは努力して勝ち取った成果だよ。…よく、がんばったよね」

良太は缶の「サッポロ黒ラベル」500mℓ…、勝美はカップに注いだ甘酒で乾杯した。

「そんなコトないです、良太くんもがんばったでしょ〜…?」

勝美の作ってくれた、…お弁当から良太は厚焼き卵をツまむ。

…「いや、正直。おれ大学には…、あまり興味がないんだ。こ〜ゆうお仕事しよ〜、みたいなのがなかったから…。取り敢えず、…進学しただけだモノ」

…「サッポロ黒ラベル」の500mℓ缶を、グイッとあおる良太。

「その点…、勝美さんはえらいよ。勉強は一生懸命やったし、お料理やお掃除はこなすし…。おれなんか、…足許にも及ばない」

…勝美も、クイッと甘酒を飲み下した。

「…」

良太にど〜声をかけてゆいのか…、勝美はわからない。確かに、自分は生活の労苦を日々やっつけている…。だけども、…良太の「人生の悩み」だって。…カタチになって顕われないだけで、充分に価値あるのではないか。と…、勝美は想ってゆたのだ。

「ところで勝美さん、大学に入学したらアルバイトはど〜するの…?」

温かくはないのだが、…まだ寒いから。…勝美は今日、おでんを持って来ている。良太は…、大根をはしで崩し口に運んだ。

「近くのスイミング・クラブで、子供達に…。水泳を教える、…アルバイトの募集があるので。…それに、応募しよ〜かと」

「やっぱり勝美さんだ…、子供が好きなんだね。ピッタリのアルバイトだよ、よかったよかった…」

そ〜ゆわれてしまうと、…なかなか聞き返しづらかったが。…良太からは、明るい答えが戻って来る。

「おれ…、近所の喫茶店で接客やろ〜と想ってるの。そこは、勤務中でも煙草O.K.で…。何より、…お店のオーディオで好きな音楽かけてゆいんだって。…そりゃヘビメタとかは、マズいケド。Jazzなら大歓迎だって…、店長ゆってた」

勝美にも、明るい気持ちが灯った…。良太が、…自分を大切にしてくれるのは。…モチロン嬉しかったが、良太自身が望んで。打ち込める「何か」が…、例えアルバイトであっても。社会に、見つかったのだから…。

「高校生の頃から、…よく純平と通ってたお店でさ。…何時間たむろしても、イヤな顔しないでくれてたの。店長も…、Soulっつったかな。昔の黒人ポップスが好きで、よくかけてた…」

話してるウチに、…良太の顔にも笑いが戻って来た。

…「もし何なら、帰りに少し寄ってこ〜か?おれのは…、既に本決まりなんだよ。あとは大学生活始まったら、シフトを具体的に決めるだけ…」

勝美も、…笑顔でうなずく。

…「あ〜、この昆布美味しいなぁ。子供の頃から…、おでん好きだケド。ど〜にもこの昆布だけは、邪魔な気がしてたんだ…。でも、…勝美さんのおでんの昆布は美味し〜」

…こんな平和な時間が、少しでも長く続くのを。勝美は…、祈るよ〜な気持ちだった。良太も、このささやかなシアワセを…。神さまに、…感謝している。