…「今かかってるピアノ・トリオで、ピアノ弾いてるのは。多分Duke Jordanだね、…Grooveが特徴的だからすぐわかる」
「Stingray」が演奏を終えてからも、良太と純平はJazz・バー「Marble」で飲んでゆる…。
「失礼ですが…、お客さまはずい分Jazzにお詳しいよ〜ですね。…もしお客さまさえよろしければ、ウチのD.J.にごあいさつさせましょ〜か」
良太の注文した、…サントリーの「オールド」水割りを運んで来たマスターが良太に提案した。
「あっ、やっぱり専門のD.J.さんがお店にいらっしゃるんですね…。レコードとレコードの…、流れがすごく心地よくて。…よかったら、是非会ってみたいです」
それを聞いた純平は、…自分のロック・グラスとピザののったお皿を持って立ちあがる。
「それなら、おれたちがカウンターに移りますよ…。良太…、灰皿持って来てくれ」
…サントリーの「オールド」水割りと、灰皿を持って純平のあとを追う良太。夜の10:30を回った店内にいるのは、…良太と純平を除けばテーブル席に座るカップルだけだ。
「お〜い小野くん、ちょっと出てこれんかな…?タイヘンにJazzのお好きなお客さまがいらっしゃって…、少しお話なさりたいそ〜だから」
…カウンターの奥のD.J.ブースから、小野くんの返事が聞こえる。
「ちょっと待って下さい、…ちょ〜どDuke Jordan終わるトコなんで。次のThe Great Jazz Trioに接いだら、ごあいさつに伺います…」
「おっやっぱり当たったな大したモンだ…」、と純平は良太を振り返った。
「私もJazz・バーやってるぐらいですから、…好きは好きですが。…他人さまに聴いていただく程の、趣味ではございませんので。D.J.として…、小野くんにお任せしてるんです。ただその分、お客さまにチャージ料をお願いするコトになってしまって…」
純平は、…火の点いた「マイルド・セブン」を長く吹かす。
「…いや、そんなの全然構わないですよ。むしろせっかく働いたんだから…、こ〜ゆう粋な計らいにお金を払いたいモンです。ところでマスター、カクテルなんかもやってますよね…?」
マスターに、…カクテルの相談を純平は始めた。…もちろん純平が飲みたいのではなく、恋人を連れて来た場合を想定してである。
「お待たせしましたお客さま…、ど〜ですかお愉しみいただけてます?」
年齢は30過ぎぐらいであろ〜、髪はボサボサでよれたフランネル・シャツの…。D.J.小野くんが、…カウンターに顔を出した。…良太は、自分もJazzのカセット・テープを作っては。アルバイト先の「コーヒー庵」で流してるのを伝えて…、「やっぱり敵わないですよ」と小野くんの腕を讃える。
「いや〜、やっぱり単に場数でしょ〜…。D.J.って、…とにかくお客さまに聴いてもらうのが。…イチバンかなと、そして批判されてこらえるみたいな」
それから…、良太と小野くんは軽くJazz談義に花を咲かせた。小野くんは、Grant Greenが好きらしい…。
「もし、…お客さまが改めてJazzを勉強したいと。…仰るなら、Miles Davisを中心に聴かれたらゆいと想いますね。ぼくは…、個人的にはあんまり好きじゃありませんが。それでも、Miles Davisとその周辺のJazzメンが…。Jazzの歴史の本流を、…形造ったのは間違いありませんから。…Jazzをお聴きになるなら、好き嫌いではなくさけては通れないでしょ〜」
体中から…、D.J.小野くんへの憧れをいっぱい出しながら。良太は、そのお話をありがたく聞いた…。
その脇で、…純平は試しに注文しマスターに作ってもらった。
…ジン・トニックを、「こら美味いな」と味わっている。