再臨物語again〜春馬町より愛を込めて〜 その49

「それではみなさん…、これからベッドと車イスの間の。移乗介助の練習をしましょ〜、ペアを組んで介護士役とご利用者さま役に…。わかれて下さい、…あとで交代しますから」

…先生が呼びかけ、生徒達は机とイスを片づけ始める。移乗介助とは…、ご利用者さんを。介護する者が支え、ベッドから車イスやその逆への移動を手伝う介助だ…。

「よろしく良太くん、…どっちが先に介護士役演る?」

…良太の隣の席の、坂本さんは40代前半の女性で。介護士にはならないが…、交通事故の後遺症で介護が必要な。弟さんへの介助に役立てよ〜と、技術を学ぶ為この学校に通ってゆる…。

「ぼくから演ります、…それでゆいですか?」

…うなずく、坂本さん。教室の隅に置いてある…、実習用のベッドをみんなで運び。そのベッドを用いて、一組ずつ移乗介助の練習が始まった…。

「こんにちは佐藤さん、…体調はいかがですか?」

…移乗介助に限らず、介護は何よりも。声かけが大切だと…、学校では教わるが。残念ながら、介護の現場に出てしまえば…。そこまで丁寧にあいさつしている、…余裕は時間的にも手間的にもない。

…「今からこちらの車イスに移ります、めまいやふらつきなどありませんか?」

先生が見守る中…、ベッドと車イス間の移乗介助の練習を。一組ずつこなしてゆく、緊張する良太は頭の中でこんなコトを考えていた…。

「座学がどんなに出来たって、…それは机上の論理に過ぎない。…介護士として本当にみなさんのお役に立てるかは、今日みたいな実習で決まるんだ」

良太がそんな風に…、頭の中をぐるぐるさせてゆるウチ。良太と坂本さんの、番がやって来る…。坂本さんはベッドに横たわり、…そのベッドの脇に立つ良太。

「…」

しかし…、声かけは全て飛んでしまった。良太の頭の中は真っ白で、何も言葉が出て来ない…。

「良太くん良太くん、…先ずはごあいさつからよ」

…端から、先生が声をかけてくれた。

「こんにちは坂本さん…、体調はいかがですか?」

最初のひと言さえ出てしまえば、あとは自然にするするとやり取り出来る…。

「坂本さん、…失礼します」

…良太は一声かけてから、坂本さんの体に触れた。普通多くの人は…、介助とはゆえ赤の他人と。体を密着させるのに慣れていない、ましてや異性なら尚更であろ〜…。その点良太は、…中学・高校と柔道部で。…時に女子部員も混ざって、寝技などももみ合ってゆたから。ある程度の耐性はあった…、座っている坂本さんに。足を開いてもらい、自分の片足を踏み込むと…。左手で腰を抱え右手で肩を支えながら、…「せ〜のっ」のかけ声で。…息を合わせ、車イスに移らせる。

「良太くんじょうず…、安定してるね」

坂本さんは、驚いたよ〜だ…。

「いやこれは、…形だけですから。…坂本さんも、どこも悪くないですし」

口ではそ〜語る良太だが…、これは柔道と。

要領は同じだと、心の中で確信を掴んでいる…。