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遥かなる旅 16

エリヤとアベルは、ゴド船長の船を降り、地の果てへと、辿り着きました。
ゴド船長は、去り際に言い残して行きました。
ゴド「随分先にはなっちまうが、一応帰りには、ここへ寄っていく。それまで、お前達の命があれば、だがな…。」
エリヤは、呑気に言いました。
エリヤ「そう気を使わんでも、なんとかなるわい…。全て、聖霊のお導きじゃからの。」
ゴドは、呆れて言いました。
ゴド「よくもまあ、そんなに神様を当てに出来るもんだ…。まあ、がんばれよ。旅の無事を、祈ってる!」
エリヤは、笑顔で言いました。
エリヤ「お前さんもな、気を付けて…。」
アベルも、頭を下げました。
アベル「ありがとうございました!今度会う時までには、お酒、少しは飲めるようになっておきます。」
ゴド船長は、笑いながら去って行きました。

アベルは、辺りを見渡しながら、エリヤに言いました。
アベル「ここは、何も無いんですね…。生き物の、影も形も見えない。全ては、夕焼けの様に、赤く、赤く染まっている。」
エリヤは、冷静に言いました。
エリヤ「ここからは、星も見えんのじゃ…。あの雲は、年中垂れ込めていて、晴れるということは、ない。ここから、少し行けば、地獄の大門じゃのう…。」
アベルは、尋ねました。
アベル「地獄にも、立ち寄るんですか?」
エリヤは、笑って答えました。
エリヤ「地獄にまでは、用は無いよ…。そんなに、何でもかんでもは、背負いきれんわい。さて、出発するかの…。」
アベル「はい。」
二人は、遥か遠くにそびえている、悲しみの山目指して、歩き出しました。

アベルは、歩き始めてすぐ、気付く事がありました。
アベル「エリヤ様…。何だか、不思議な気持ちです。旅に、慣れたんでしょうか?歩いても、疲れない…。」
エリヤは落ち着いて、返事をしました。
エリヤ「それは、この地の力じゃよ。この地では、欲望が人間の土地より、強く働く…。それで、自分が強くなった様に、錯覚するんじゃ。」
アベルは、納得いきませんでした。
アベル「そうなんですか…。」

二人は、そこら中に転がっている、巨大な岩と岩の間を縫うように、足場を確かめながら歩いて行きました。
アベル「ここは、すごいところですね…。こんなに住みづらいのでは、生き物はとても、住めないでしょう。人々が、恐ろしい所だと噂するのも、もっともです。」
エリヤは、落ち着いて答えました。
エリヤ「もっと、住みにくいところに生きる動物も、いくらだってあるじゃろう…。雪山の断崖絶壁の上とか。そういうことでは、ないんじゃ。さっきも言ったが、ここでは欲望が、強くなる…。それが、恐ろしいんじゃよ。」
アベルは、不満を募らせました。
アベル「そうなんですか…。」

アベルは、歩みを進めているうちに、エリヤは只の、臆病者なのではないか?という疑念が、兆して来ました、
アベル「エリヤ様。ぼくにはこの土地は、少しも恐ろしく、感じられません。何でしょう?皆、この赤い土地の、恐ろしげな風景に、恐れをなしたんじゃないでしょうか…。だとすれば、大人だっていうのに、みっともない事です。」
エリヤは、落ち着いて答えました。
エリヤ「そんな事は、ないよ。たったそれだけの事で、多くの人々が、命を落としたりする筈、無いじゃろう…。物事にはちゃんと、起きた結果に対する、然るべき原因があるものじゃ。それを、軽んじては、ならんのじゃ。」
アベルは、返事をしませんでした。

アベルは、確信しました。
エリヤは、馬鹿なのだと。
何だか、もっともらしいことを言って、自分を偉く見せようとしてる、ペテン師なのだと思いました。
アベル「ぼくには、わかりました。ここを訪れた者は、皆孤独だから、狂ってしまった。ただ、それだけの事なんです。それは理由としては、シンプルでしょう。しかし、わかっていても人間は、孤独には耐えられないのです。誰も彼も、そんな簡単なことすら、思いつかなかったんだ!」
エリヤは、ため息をつきました。
エリヤ「アベル、お前さんは、充分幻に惑わされておるよ。やれやれ、人の欲望とは、何と他愛のないものなんじゃろう…。」
その時エリヤの目に、宙にフワフワと浮かぶ、山崎の18年とThe Peaceが、映りました。
エリヤ「おうおう、何と可愛らしい奴よ…。わしの帰りを、家でキチンと待っておれ。この旅から帰ったら、たっぷり愉しむとしよう…。」
アベルは、地面に座り込んで、ブツブツ言い始めました。
アベル「皆んな、バカで何もわかってないんだ!今、こうしている間にも、世界は滅亡の危機に、瀕している…。ぼくの力が、ぼくの知恵が必要だ。そうでなけりゃ、皆んな死んじまう!」
エリヤは、優しく言いました。
エリヤ「アベル、しっかりしなさい…。カルナから貰った、お守りはどうした?あれに、願でもかけてみては、どうかのう。そうすれば、気分もすっきりするじゃろう…。」
アベルは飛び上がって、叫びました。
アベル「カルナ。そこにいるのは、カルナじゃないか!ぼくに、会いに来てくれたのかい?」
エリヤは、深いため息をつきました。