読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

帰ってきた男達 6

坂田金時は海の上で、亀吉の背に揺られていました。
金時「亀吉よ、随分気持ちよさそうだな。お前、海は好きか?」
亀吉は、ニコニコしながら答えました。
亀吉「はい〜。大〜好きで、ご〜ざいま〜す。私〜は海にい〜ると、心がウキ〜ウキするん〜です。」
金時は、海の彼方を眺めながら、言いました。
金時「うむ。おれも、そうだ。海は、いい。海は人間同士の醜い争いを、全て受け入れている…。」
亀吉は、何と返事をすればいいのかわからず、黙って頷きました。
金時「亀吉よ。」
亀吉「はい〜?」
金時は、静かな口調で言いました。
金時「お前はおれを、恐れているな?」
亀吉は、少し黙りましたが、しばらくして口を開きました。
亀吉「その〜通り〜です。金時様〜は、すぐに人〜を、殺すか〜らです〜。」
金時は、表情を見せずに、言いました。
金時「それでいい。人を心服させるには、心から恐れられなければ。人は恐れなければ、何かに従うという事は、ないのだ。」
亀吉は、少し考えてから、口を開きました。
亀吉「でも〜、そん〜な生き方、寂し〜くないです〜か?」
金時は、胸を張って答えました。
金時「人を統べる者に、安らぎなどないのだ。おれは、苦しまねばならん。その苦しみが、おれに従う者達の、力になるのだから。」
亀吉は、ボンヤリと何か思いましたが、目に入った目的地の為に、その事は忘れてしまいました。
亀吉「そ〜ろそ〜ろ、見えて来〜ましたよ。鬼ヶ島〜です。」

金時は、鬼ヶ島の土を踏みしめました。
鬼ヶ島は、桃太郎に滅ぼされるまで、鬼達の楽園でした。
しかし今は、頭領の酒呑童子も討たれ、配下の鬼達も各地にバラバラに潜んでいる為(一部は、地獄で悪魔達と合流しています。)、誰もいません。
かつては栄華を誇った、豪華な御殿も、無敵と謳われた、堅牢な砦も、全て朽ち果てていて、見る影もありませんでした。
金時「兵どもが夢の跡、か。」
どこからか、カーンカーン、と鉄を打ち付ける音が、鬼ヶ島に寂しく鳴り響いています。
金時「いい音だ…。おれには楽の音より、ずっと心地がいい。」
金時は音のする方に、引き寄せられるように歩いて行きました。

金時は鬼ヶ島の奥にある、小さな掘っ立て小屋の前に、立っていました。
金時は大きな声で、呼びました。
金時「再治鬼よ、いるか?坂田金時だ!」
掘っ立て小屋の中から、ボソボソとくぐもった声が、聞こえました。
再治鬼「そんな、大きな声を出さなくても、聞こえとるわい…。全く、うるさい人間じゃ。」
金時は、むしろを跳ね上げ、中に入りました。
金時「入るぞ!」
金時が中に入ると、小さな鬼が一匹、台の上に置かれた真っ赤な鉄を、金床で打っていました。
再治鬼「待っていなされ…。わしの手が、空くまでな。」
再治鬼は、鍛冶屋だったのです。
金時は、刀を鍛えている再治鬼の前に、ドッカリ腰を下ろすと、腰に下げていたどぶろくの栓を抜きました。
金時「再治鬼よ、景気はどうだ!」
再治鬼は、金時には目もくれず、まるで一人で呟く様に答えました。
再治鬼「ふん、お前なんぞに心配される、いわれはないわい…。上場じゃよ。どうやら近々、帝と将軍が一戦交えるらしい。わしのような、腕のいい鍛冶屋には、願ったり適ったりじゃ。」
金時は、どぶろくを喉に、ごくごくと流し込みました。
金時「お前達鍛冶屋は、世が乱れれば乱れる程、重用される訳だ…。業の深い、商売だな。」
再治鬼は、うるさそうに言いました。
再治鬼「なんじゃ、お前。わざわざわしの所に、説教に来たのか?」
金時は、小屋の中を見回すと、一本の金棒に目をつけました。
金時「これは、なかなかいい…。」
再治鬼は、チラリとそちらを見ると、またすぐ視線を、元に戻しました。
再治鬼「それは、かつて酒呑童子殿の為に特別に作った、特製の金棒じゃ…。人間なんぞに、扱えるものか。」
金時は、ひょいと担いで、表に出ました。
金時「再治鬼、試させてもらうぞ!」
金時は、巨大な一枚岩の前で、金棒を構えました。
そして、大きく息を吸うと、掛け声をかけて、打ちました。
金時「ぃやあ!」
ものすごい音が、辺りに鳴り響き、一枚岩は粉々に砕け散りました。
金時「ダメだな…。使い物に、ならん。」
金棒は折れ曲がって、ひしゃげていました。
金時は小屋の中に入り、無惨な形になった金棒を、再治鬼の前に投げ出しました。
金時「お前は、こんな物でメギドの丘と、渡り合えると思っているのか?おれが注文しておいた品は、まさかこんな物ではないだろうな…。」
再治鬼は一息入れながら、暗い影を背負い、陰鬱に言いました。
再治鬼「お前は、無茶な注文をつける…。神が鍛えた業物を上回れ、と言うんじゃからな。」
再治鬼は、小屋の奥へと引っ込みました。
金時は、再びドッカリと腰を下ろしました。