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帰ってきた男達 7

再治鬼は、一振りの太刀を携えて、金太郎の前に姿を現しました。
その太刀を、金太郎の前に突き出しながら、再治鬼は言いました。
再治鬼「名は、白鏡…。わしの、最高傑作じゃ。」
金時は受け取ると、スラリと刀身を抜き放ち、光にかざしました。
白鏡は陽の光をうけて、白一色に輝きを放ちました。
再治鬼は、満足そうに言いました。
再治鬼「どうじゃ、美しいじゃろう…。」
金時は白鏡を、軽く振りながら答えました。
金時「戦場では美しさなど、何の役にも立たんさ。しかし、軽いな…。まるで、羽毛の様だ。」
再治鬼は、ニタリと笑いました。
再治鬼「そこが、わしら鍛冶屋の腕の見せ所じゃ…。素材の重さなんぞ、問題にはならん。全ては、バランスじゃよ。どうじゃ、この均整の取れた美しい刀身は?まるで、天女のようじゃろう…。」
金時は、何の興味も示さずに、言いました。
金時「斬れ味を、試したい。そうだな、あれがいい…。」
金時は、小屋の壁に立てかけてある、何本もの刀や金棒の前に、立ちました。
再治鬼「おい、お前!バカな事を、考えちゃいかん。それは、皆売り物なんじゃから…。」
金時が、水平に刀を走らせると、なんの手応えもなく、刀も金棒も二つに裂けて行きました。
金時は、満足しました。
金時「これは、いい。これなら、充分だ!コノンを斬るには、この白鏡しかない…。」
再治鬼は、売り物を皆ダメにされてしまってウンザリしましたが、それでも出来にはやはり、満足していました。
再治鬼「満足したかの…?」
金時は、再治鬼の方に振り向き、言いました。
金時「素晴らしい出来だ、再治鬼よ!報酬は…。」
再治鬼は、金時の言葉を遮って、言いました、
再治鬼「まあ、待つがいい…。わしには、わしの望む報酬がある。お前さんは、きっと出し渋るじゃろうがの…。」
金時は、侮蔑された様な気がしました。
金時「何を言うのだ!どんな物でも、お前の望む物を与えよう。金銀財宝か?それとも、絶世の美女か?」
再治鬼は、話をはぐらかしました。
再治鬼「それよりも、先に一杯やろう、金時?白鏡の完成を、祝ってな…。待っていろ、今酒を持ってくる。」
再治鬼は、再び奥へと引っ込み、今度は並々と酒の注がれた汁椀を二つに、両手に抱えて戻ってきました。
再治鬼「これは、鬼殺し…。これにかかれば、鬼じゃろうと人間じゃろうと、イチコロじゃ。」
再治鬼は汁椀を一つ、金時に渡すと、自分の物を天高く掲げ、こう言いました。
再治鬼「では、白鏡の完成を祝して。そして、金時。お前さんの、明るい門出を祝して、乾杯じゃ!」
再治鬼は、鬼殺しをグビグビ勢い良く、飲み干しました。
金時も、汁椀を口元に、ゆっくりと運びました。
その瞬間、再治鬼の首は、床に転がっていました。
金時が、白鏡を抜いたのです。
再治鬼は、恐らく何も気づかなかったのでしょう。
床に転がった首は、笑顔でした。
金時「臭い芝居だ…。お前の目論見になど、とうに気付いている。」
床をウロチョロしていたネズミが、床にこぼれた鬼殺しを舐めると、すぐにその場で息絶えました。
金時は、再治鬼の亡骸を見下ろして、一人呟きました。
金時「それでよい、再治鬼よ…。これでお前を殺した事に、心を痛めずに済む。どちらにせよ、お前に生きていてもらうわけには、いかなかったのだ。こんな優れた武器が、敵の手に渡る事を考えるとな…。」
金時は、丁寧に血糊を拭うと、白鏡を鞘に収めて、その場を立ち去りました。

金時は再び、亀吉の背中に揺られて、海の上にいました。
亀吉「金時〜様。あ〜なた、人を殺し〜ましたね。」
金時は、潮風が気持ちよさそうに、言いました。
金時「わかるか、亀吉?その通りだ。一人、斬ってきたよ…。」
亀吉は、何故だかとても、悲しくなりました。
亀吉「あ〜んまり人を殺〜しちゃ、いけま〜せんよ。心が〜、貧しく〜なります。」
金時は、なんだかはしゃいでいるようでした。
金時「おれはとっくに、心なんぞ売り渡したさ!それにしても、気持ちのいい風だ…。亀吉よ。」
亀吉は、自分の感じている憂鬱なのか、悲哀なのかわからないモヤモヤとした感情を、どうしていいのかわかりませんでした。
亀吉「はい〜?」
金時は、爽やかに言いました。
金時「おれはいつか、竜宮にも住んでみたいな!賓客でなくて、いい。お前達と一緒に、海をのんびりと泳いで回りたいものだ!」
亀吉は、竜王様に祈りました。