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聖書・ルカ伝 1

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ヨハネと同じ、福音史家のルカは、天国にある自分の書斎で、オヤツの天乃屋の歌舞伎揚げと一緒に、缶のオランジーナを飲んでいました。

手にしていたのは、「オオカミの宝物」という短編です。
最近、ヨハネが発表した新作でした。
 
 
昔ある山間に、小さな村がありました。
その村に、ノンという女の子が、いたのです。
ノンは、お父さんもお母さんもなく、いつも村で、悪さばかりしていました。
ノンが、あんまり悪さばかりするので、だんだんオオカミの尻尾が生え、オオカミの耳が生え、犬歯は尖って牙となり、爪も鋭くなっていって行って、まるでオオカミの様になってしまったのです。
ノンは子供だったので、大人からは相手にされまていませんでたが、子供からは大層、恐れられていました。
何故かと言うと…。
ある時、ペル、という名前の小さな女の子が、一人でお部屋で、大好きなお人形で遊んでいました。
お人形の名前は、プレイヤです。
ペル「あらあらプレイヤちゃん、お腹が空いたのかちら。もうお昼ですものねー。じゃあ、お昼ご飯の準備をちましょう。」
ノンはその様子を、窓の外から窺っていました。
ノン「ククク…。あれが、ペルの宝物だな。誰の宝物も、皆んなあたしの宝物だ!」
そして、姿を見せずにまどをノックし、ペルのお母さんの声色で、話しかけたのです。
ノン「ペルや、ペル。お母さんですよ…。窓を少しだけでいいから、開けておくれ。」
ペルは驚いて、小さな背を目一杯伸ばして、すぐに窓の鍵を、外しました。
ペル「おかあさん、鍵は開けまちたよ。」
ノンは、それを聞くと、窓を勢いよく開けて、部屋の中に飛び込みました。
ペルは、叫びました。
ペル「きゃあー!おかあさ〜ん、オオカミが出まちたー!」
ノンは、ペルからプレイヤを取り上げると、こう告げました。
ノン「これまでは、この人形はお前の宝物だったけど、これからは、あたしの宝物だ!」
そしてノンは、泣いているペルを尻目に、入って来て窓から飛び出して行き、風の様に走り去りました。
ノンは、自分の根城の、山奥にある洞穴に引き上げました。
そこには、今までに子供達から取り上げた、宝物がうず高く、積み上げられていました。
電車の模型、クマのぬいぐるみ、カッコいいスニーカー、縄跳び、積み木、ボードゲーム…。
ありとあらゆるおもちゃが、そこにはありました。
ノンは、そこにプレイヤを放り込むと、一瞥もくれずに、こう言いました。
ノン「さあ今度こそ、あたしの、あたしだけの宝物が、手に入っただろう!きっと、これで明日から毎日が変わる…。きっと明日から、ウキウキが止まらなくなる!」
誰にともなくノンは、そう言って横になりました。
しかし、翌朝目が覚めると、ノンはもうプレイヤには興味が無くなって、新しい宝物が欲しくなるのでした。
そして、益々オオカミに近づいて行ったのです。
 
そんなある日、村にマサクという、男の子が引っ越して来ました。
マサクは、生まれつき体が弱かった為に、家から出る事が出来ず、いつも部屋に一人でいました。
マサクのお父さんとお母さんは、マサクの病気が少しでもよくなるように、空気の汚い都会をさけて、この村に引っ越してきたのでした。
ノンは、マサクの噂を聞くと、こう思いました。
ノン「都会の子か…。それなら、今までに見た事もない様な、珍しい宝物を持っているだろう。それさえ手に入れれば、あたしは…。」
ノンは、早速マサクの家に出掛けました。
ノンが窓から覗くと、マサクは果たして、部屋にいました。
マサクははじめ、昆虫の図鑑を、熱心に見ていました。
そして、うなずいたり微笑んだりしながら、ページをめくっていました。
ノンは、期待しました。
ノン「あいつの宝物は、あれかな?確かにあんなに分厚い本は、見たことない。もう、あれを奪ってしまおうか?いやまてよ、ここは慎重に…。」
しばらくすると、マサクは部屋の隅にあった、大きな分厚い、黒いテーブルのような物の前に座りました。
そして、手元のカバーを開けると、そこには、黒と白の積み木が並んでいて、まるで人間の歯の様でした。
マサクは、大きく息を吸い込むと、その歯を、両手の指で、叩き始めました。
そうすると、不思議な音が、流れ始めたのです。
そうです。
黒いテーブルとは、ピアノだったのです。
ノンは、何だかボンヤリとしてしまいました。
様々な風景が、頭の中で浮かんでは消えていき、ウットリとして夢見ごごちでした。
しばらくすると、マサクは手を休めました。
すると、ノンにも再び、マサクの姿が目に映ったのです。
ノンは、嬉しくなりました。
ノン「あれが、あいつの宝物か!すごいぞ、今までで最高だ。あのテーブルさえあれば、いつでもあんないい気分になれるんだ。でもどうしよう、少し大き過ぎるな…。ええい、なるようになるさ。行くぞ!」
ノンは、姿を隠して、窓をノックしました。
マサク「誰だい、オオカミの子かい?」
ノンは、ドキッとしました。
それでもマサクは、窓を開けました。
マサク「やっぱり、そうかあ…。噂で聞いてるよ。君、宝物を盗んでるんだってね。ウチの物でよければ、何でも持ってっていいよ。」
マサクは、誰かが訪ねて来るのが、余程嬉しかったのか、ニコニコしていました。
ノンは、怒りました。
ノン「何言ってるんだ、バカ!あたしは、物乞いじゃないんだ。ふん、何でもいいさ。その黒いテーブルが、お前の宝物だろう…。それを、頂いていく!さっきの綺麗な音は、これからはあたしのものだ。」
マサクは、笑って言いました。
マサク「黒いテーブル…?ああ、ピアノの事か。ハハ、ぼくの宝物は、ピアノじゃないよ。ピアノなんて、すぐ買ってもらえる…。」
マサクは、ピアノの前に座って美しい旋律を、一フレーズ弾いて聴かせました。
そして、ノンの方に向き直って、こう言いました。
マサク「ぼくの宝物は、音楽そのものだ…。どうだろう、君に盗めるかな?」
ノンの胸に、何かが突き刺さりました。
その時、マサクのお母さんの声がしました。
お母さん「マサク、どうしたの?誰か来ているの?」
ノンは、捨て台詞を残して、退散する事にしました。
ノン「宝物がなんであったって、最後は、あたしの物になるんだ…。この次、見ていなよ!絶対、絶対、盗んでやるから。」
マサクが、口を開くより早く、ノンは走り去りました。