Black Swan -overload- 25

悪鬼は、必要以上には近づいて来ない。
槍のリーチを活かして、遠間から突いて来た。
ゼクは刀身で受け流し、接近を試みる。
その間に壮年の騎士は脇に回り込み、攻撃を仕掛けた。
「こっちだ、行くぞ!」
壮年の騎士は、剣で力強く打ち込む。
悪鬼は槍の柄の根元で、かろうじて受ける。
「そらっ、こっちだぜ!」
その隙を突いて、ゼクは刀を閃かせ悪鬼の首を刎ねた。
「ゼクさん!」
壮年の騎士はゼクの背中を、盾を構えて庇った。
聖別された神聖な盾が、魔法の炎を遮断する。
「真にほむべきかな、神々を統べ給う至聖なる三人の神…。人間に造られし至聖三者よ!我らの苦悩、悲哀、疲労を慈しみ給え!!」
ソクロは、祈祷を終えた。
すると魔法陣を形作っていた赤黄色い光を押し返す様に、青紫色の光が疾る。
サモン・ジェネーレーターの魔力は逆流し、残っていた魔導士と悪鬼を吸い込んでいった。
「ふうっ!やりましたね、ゼクさん。」
壮年の騎士は、息を吐いた。
「まだまだだ…。応援が来るまで、ここを守らねーと。」
そうは言いながらも、ゼクも笑っている。
「いや〜、疲れました…。」
ソクロは疲れ切って、地面に尻もちを突いていた。
同じ頃、セトはエマを連れて、海岸を散歩していた。
あいにくと、天気は曇っている。
「楽しい〜!うん、あたしは今、とても楽しい!!」
エマは、はしゃいで駆け出した。
やがて靴が邪魔になったのか、放り出して駆け回った。
「お〜い!あんまり、遠くまで行くんじゃないよ…。」
セトはゆっくり歩きながら、エマを見詰めている。
「セト様、こっち〜!こっち来て!」
エマは袖をまくり、砂を掘り始めた。
砂は高く積まれて行き、山の様になっている。
「こらこら、服を汚すなよ。」
セトは、苦笑いしている。
エマは猛烈な勢いで、砂を盛って行った。
エマは、セトの所に走って来た。
「セト様…。」
「何だい?」
セトは、エマの顔を覗き込む。
エマは、うつむいて言った。
「あの…、セト様のお名前、お借りしてもよろしいですか?」
セトは、エマの頭を撫でて言う。
「いいよ。君の好きにするといい…。」
エマは砂で造った山の所に走って戻ると、その両脇に、落ちていた枝を使って、セト、エマと書いた。
セトは微笑んで、その光景を眺めている。
砂の山は、ハートの形に盛られていた…。
エマは再び、セトの所に走って来た。
敬礼の真似をし、片手を挙げる。
「セト様、セト様!あたしの空腹を、報告します!」
セトは、プッと吹き出した。
「昼ごはんを食べに行こう…。その前に、手足をきれいにしないとね。」
二人は近くの水道に行き、エマの砂にまみれた手足を洗い流した。
エマが水で洗っている間に、セトはエマが放り投げた靴と靴下を拾ってくる。
「ありがとう…、ございます。」
セトはそのままタオルを取り出して、エマの手足を拭い始めた。
エマは、体が火照って来るのを感じた。
「さ、行こう。」
セトとエマは、並んで歩き出す。
エマの手を、セトの華奢な指先がそっと包んだ。
セトは、何も言わない。
まるで、いつものことみたい…。
そんなことを、エマはボンヤリしながら考えていた。
エマは聞いた。
「セト様にとって、あたしは何なんですか…?」
セトは、前を向いたままだ。
「今は、未だその答えを望まないで欲しい…。いつか必ず答えは出す。そして君を不幸には、絶対にしない…。」
エマは何だか嬉しかった。
「はい…!!」