Black Swan -overload- 23

ブラック・スワンとハウシンカ、ミミカは、ヘムの村のザハイム研究所発掘現場に戻った。

そこでブラック・スワンは聖コノン騎士団と共に、狗香炉率いる黒き騎士達との戦いに明け暮れる日々を送っていた。
オルト山の山道で、ゼクとソクロ、それに二人の騎士は、黒き騎士二騎に遭遇している。
どちらも徒歩だ。
「ゼクさん、今度は私が先に行きます!」
壮年の騎士が叫ぶと同時に、黒き騎士の一騎、悪鬼に立ち向かって行く。
「ぼくだって、遅れませんよ!」
若い騎士が、その後を追った。
ゼクは、大声で呼び掛ける。
「わかった!俺は、スケルトンを片付ける。ソクロ、頼むぜ!」
ソクロは、もう既に詠唱に入っている。
八端十字架を天に掲げ、神聖な文言を語り始めた。
「お前の相手は、この私だ!」
壮年の騎士は、悪鬼の左側から斬りかかる。
「ほらほら、こっちから行くぞ!」
若い騎士は、右からだ。
悪鬼は、二人の剣撃を槍で受けながら、後ろに退がっていく。
一方ゼクは、一撃でスケルトンの首を刎ねた。
"吉祥天"は、名刀だ。
骨を断つぐらい、何てことはない。
そのまま蹴り倒し、刀の峰で砕いていく。
ソクロは、歌う様に詠唱を続ける。
額から汗が浮かび上がり、首筋を伝った。
手にした八端十字架が熱を持ち始め、スケルトンは煙を上げる。
「ウゴー!!」
業を煮やした悪鬼が、大振りに槍を振るい壮年の騎士に打ち掛かった。
壮年の騎士は、しっかりと盾で受け止める。
「今だ!!」
若い騎士はその一瞬の隙を突いて、脇腹を切り裂いた。
悪鬼は苦しみ、声を上げて槍を振り回す。
壮年の騎士は慎重に近づき、胸に一撃を加え止めを刺した。
ゼクの方も、ソクロの祈祷が終わりスケルトンは土に還る。
「終わりましたね…。」
ソクロは肩で息をしながら、穏やかに語った。
若い騎士は、言った。
「この先の様子を見に行くなら、ぼくに行かせて下さい。まだまだ、やれますよ。」
壮年の騎士が、口調を合わせた。
冒険者の皆さんに戦わせて、騎士が何もしなかったなんてそんな不名誉なことはありません。」
ゼクは、頷く。
「わかった。俺とソクロは、ここで待ってる。無理はするなよ。何かあったら、呼びに戻ってこい!」
戦いは、カトラナズ側が優勢に進めていた。
そのことを、ルカーシはセトに報告する。
「我々の死者は二名、負傷者五名で、黒き騎士は既に報告があるだけでも、四十騎は撃破しています。これは私見ですが…、ゼクくんの提案した戦法が有効に働いていますね。独特なのです。常に数的に有利になる様に…。」
セトは、微笑んで言った。
「わかったわかった、彼の活躍なんだろ?素晴らしいね、全く…。」
「ただ、サモン・ジェネレーターが未だに発見されていません。黒き騎士達の数から推測すると、複数存在することが予測されます。」
セトは、静かに返事をした。
「そうだな。そうなんだが…。」
ルカーシは、セトの表情を読み取る。
「何か、気になる点でも?」
セトはしばらく思案してから、口を開いた。
「黒き騎士達の攻撃は、あまりに散発的過ぎるよね?」
ルカーシも、そのことは考えていた。
「そうなんです…。そもそも、ザハイム研究所の発掘現場を攻略する気があるのかどうなのか…。しかし、彼らの被害は大きい。」
セトは、一語一語確認する様に話す。
「そうなんだ。これで、空手で引き上げるというのはどうたろう?確かに彼らは、兵を捨て駒の様に使う。それでもあまりにも、何というかいい加減過ぎる。」
ルカーシも、思案する。
「何か別に目的があって、我々の目を逸らしている…。」
セトは、そう考えていた様だ。
「そう考えるのが、自然だと思う。」
二人の間に、沈黙が流れる。
やがて、セトから口火を切った。
「まあ何にせよ、現状では出て来る敵に対処していくしかないな…。サモン・ジェネレーターを探すにしても、人手がね。その件は、ガウェイン将軍にぼくの方から掛け合っておくよ。」
ルカーシは、頭を下げた。
「ありがとうございます。…では、わたしはこれで。」
セトは、笑顔で敬礼した。
「お疲れ様、またよろしく。」
ルカーシも敬礼し、団長室を退出する。
その足で食堂に向かうと、見慣れない騎士が近づいて来て、こう耳打ちした。
「ルカーシ様。ガウェイン将軍からです…。」
見慣れない騎士は、周りから見えない様にルカーシにガウェイン将軍からの親書を手渡すと、足早に去って行く。
ルカーシは向きを変え、厩舎に向かった。
…すぐに発掘現場に戻り、中を確認しなければならない。