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Black Swan -overload- 26

ゼクは、今日は非番だった。

発掘現場の宿舎で目を覚ますと、もう大分陽が高くなっている。
ゼクは、あくびをかみ殺しながらベッドから起き上がり、着替えを済ます。
Tシャツは特にこだわりはない。
普通に、Dickiesで購入した蹄鉄のロゴの入った赤い無難な物だ。
だが、ジーンズはLeeの「101riders」1955年モデル(当然、復刻ではある…。)。
憧れのジェームス・ディーンが映画ではいていた奴で、ゼクはずっとこれだけをはいていた。
スニーカーは、ネイビーのジャック・パーセル
陳腐だとは思ったが、ジーンズに合わせるのだから仕方がない。
ヘムの村に着くと、時刻はもう昼だ。
行きつけのラーメン屋「招福軒」に行くと、店の前にソクロが立っている。
「あれ…?ハウシンカが来てんのか。」
ソクロは、黙って頷いた。
ゼクが店の引き戸を引くと、隅っこでハウシンカがチャーハンを食べている。
白×ネイビーのボーダートップスに、ワイドなデニムパンツ。
それに椅子に掛けられたテーラード・ジャッケットという出で立ちは、明らかに浮いている。
「何だよ、お前。こーゆー店に来んのかよ?」
ゼクはハウシンカと同じテーブルの、向かいの席に腰を下ろした。
「馴れ馴れしいわね。いつものカフェが休みだったから…。たまたまよ。」
ゼクは、注文を取りに来た若い女性に告げた。
「…チャーシューメン大盛りとギョーザね。」
注文するとゼクは、すぐに煙草に火を点ける。
「あなたね、人が食事してるのよ?それに、私は煙草大嫌い。」
ゼクは気持ちよさそうに煙を吐き出すと、ハウシンカに言った。
「この前は、引っ叩いたりして悪かったな。別に詫びって訳じゃないんだが、何か買ってやるよ…。」
ハウシンカは、チャーハンを口に運びながら言った。
「女性に暴力を振るう男なんて、最低よ。」
ゼクは、のんきに天井を眺めている。
やがて、チャーシューメンが運ばれてくる。
ゼクが箸を割りラーメンをすすり始めると、ハウシンカは席を立とうとした。
「…ごちそうさま。」
ゼクはチャーシューメンの湯気の向こうのハウシンカを、手で制した。
「いーから、少し付き合えよ。俺が払うから。」
ハウシンカは忌々しさを感じながら、再び席に座った。
二人は、村にある民芸品の店「しず屋」に立ち寄った。
村の伝統工芸品を取り扱っている店で、木を彫ったり麻を編んだりした、小物が並んでいる。
「どれにする?」
「私は、欲しくない。」
ゼクは少し眺めると、天然石をはめ込んだネックレスを手に取る。
「これで、いーんじゃねーか?」
ケルト十字に似た形で、十字の中心に石がはまっていた。
ラピスラズリは、ハウシンカの誕生石だった。
「ばあさん、このネックレスはどんないわれがあるんだ?」
店先に座っているおばあさんは、ゆっくりとしゃべり始める。
「この辺一帯は、昔っから崇高善様を崇めてますだ…。だから…ここにある品物は、みんな崇高善様への捧げ物です。」
ゼクは、お金を支払う。
「ちょうどいい。そんな陰気臭いネックレスは外しちまえよ。」
ハウシンカに押し付けると、ハウシンカは返そうと抵抗する。
「いらなきゃ、捨てろよ。俺は構わねー。」
ハウシンカは苦虫を噛み潰した様な気分で、店を出ようとドアの取っ手に手を掛けた。
…すると。
ゼクが後ろからやって来て、ハウシンカの体を自分の方に向けると、そのまま唇で唇を覆った。
ハウシンカの脳裡に、「この恥知らず!」という言葉が思い浮かんだ。
しかし言葉が思い浮かんだだけで、何も出来ない。
ゼクは唇を離すと、言った。
「俺は、お前のことは嫌いじゃないぜ。悪く思うなよ。…じゃーな!」
ゼクはそのまま店を出て、どこかに行ってしまう。
ハウシンカは、抵抗出来なかった自分に愕然とした。
そして、胸の高鳴りを抑えられない。
その頃、ゼク達が発見したサモン・ジェネレーターでは、死闘が繰り広げられていた。
ゼク達がサモン・ジェネレーターを発見してから間もなく、応援が到着した。
それからすぐに仮設の聖壇が設けられ、騎士団付きの司祭一人と助祭二人による、サモン・ジェネレーターの解除が始められる。
サモン・ジェネレーターの解除は、早くても一週間はかかる。
その間騎士達は、聖壇と司祭達を守り通さなければならない。
ローランドも、ここにいた。
敵の攻撃は激しい。
今までとは、段違いだった。
騎士達は二個小隊派遣されていたが、既に半数は戦闘不能だ。
「また、新手か?数は!」
ローランドはナイフを二本、両手に構える。
トルカの為に体術を学んだのだ。
刀は重くて無理だったので、ナイフに切り替え体術をミックスした。
「トルカちゃん、見ていてくれ!俺は、君の為に戦うぜ!」
ローランドは、新たな敵に向かって走り出す。