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Black Swan -overload- 31

ルカーシは、狗香炉目掛けて突撃した。
「狗香炉覚悟しろ!このルカーシが相手だ!」
ルカーシは得物の両手持ちの大剣を、振り下ろした。
狗香炉は矛の柄で、受け止める。
火花が散った。
「お前が"天才剣士"と噂されるルカーシか…。どこまでわしの相手が出来るか、試してやろう!」
狗香炉は牡牛を巡らし、ルカーシの正面に立つと矛を力強く打ちおろす。
ルカーシは大柄な体を生かして、しっかりとその一撃を受け止めると、反撃に出る。
両手持ちの大剣とは思えない、太刀筋の速さだ。
一撃、二撃!
狗香炉は防御に回る。
「ふむ、噂はどうやら間違いではないらしい…。なかなかいい腕だ!」
狗香炉は牡牛を、ルカーシの馬にぶつけると態勢の崩れたところに打ちかかる。
「くそっ!何て力だ…。だが、まだまだ!」
ルカーシは馬を御して、再び狗香炉に向かわせた。
「狗香炉!お前の相手は、この俺だろう!!」
ゼクが飛び込んできて、狗香炉に稲妻の様に斬りかかる。
「ルカーシ、こいつは俺に任せてくれ!こいつには、借りがあるんだ…。味方が押されてる。助けてやってくれ!」
ルカーシは、今は問答などしている場合ではないと理解している。
「わかった、そいつの相手は君に任せよう!しかし…、死ぬんじゃないぞ!」
ルカーシは狗香炉の側を離れ、戦場を駆けた。
狗香炉は、笑った。
「ハッハッハ!この前の戦いでわからなかったのか?お前の実力では、わしには勝てんと!」
ゼクは刀を翻し、素早く斬りこむ。
「やってみなけりゃ、わからないだろう?」
狗香炉は刀を押し返す。
ゼクは必死で押し返していくが、力の差は歴然だった。
「こういう所が、お前の実力不足なのだ…。先ず、体が小さ過ぎる。それでは、一流の戦士にはなれんぞ。」
ゼクは刀を引き相手の体勢が崩れた所に、右のストレートをお見舞いした。
「ぐっ…!」
狗香炉は、のけぞった。
「ガタガタうるせー。オッさん、おしゃべりしに来たのかよ。」
狗香炉は、再び矛を構える。
「気の強いガキだ…。だが、戦士にはそれが何よりだ!」
ゼクも刀を振りかざし、上段に構える。
「自分の甘さを、後悔させてやるよ…。」
ルカーシは戦場を駆け、敵を討った。
なるほど作戦は成功しているし、そのことでこちらに有利に働いてはいる。
しかし、元々の数が違うのだ。
敵は、恐らく三倍以上いたのだろう。
…それでも流れは、カトラナズ側に徐々に傾きつつある。
ローランドが、声を掛けてきた。
「ルカーシ、魔導士は倒したぜ。全滅だ!」
ローランドは、ボウガンを振っている。
「ショート・ソードを貸してくれないか?ナイフじゃ、馬の上からだと戦いにくくてな。」
ルカーシは馬に備え付けてあった、短い剣を渡す。
その時だ!
ヘムの村から火の手が上がった。
「何だ!どうしたというのだ…。まさか、物質転送か!?」
ローランドは言った。
「ルカーシ、俺が見て来る。そこの騎士を一人貸してくれ。多分、あんたの想像通りだろう…。少し、待ってな!」
ローランドは、騎士の一人と共に馬を飛ばした。
その頃、セト率いる聖コノン騎士団本隊は、ザハイム研究所発掘現場に到着していた。
発掘現場を防御していた騎士達からは歓声が挙がり、勝利を確信する声が聞かれる。
セトは、そんな彼らに静かに告げた。
「みんなご苦労だった…。引き続き防衛の任に当たってくれ。ぼく達には、別にやることがある。これから何が起こっても、それはガウェイン将軍の命によるものだ…。後で説明する。信じて欲しい。」
現場にいた騎士達は、首を傾げている。
その間にも、到着した騎士達は手分けをして、宿舎や研究棟、件の発掘現場に散っていった。
騒々しさを、誰もが感じていたに違いない。
穏やかなことではないと。
しかし大きな混乱もなく、事態は進んでいった。
セトは、ハウシンカの部屋に向かう。
ノックし扉を開けると、そこにはソクロに伴われたハウシンカがいた。
「セト…。ありがとう、助けに来てくれたのね!あなたがいれば…。」
ハウシンカは、セトに抱きついた。
セトは力を込めて、ハウシンカの体を引き離した。
「違うんだ…。ぼく達はガウェイン将軍の命令で、この施設一帯を差し押さえに来たんだ。ハウシンカ…、よく聞いてくれ。もし君がぼくの指示に従わずに抵抗するなら、ぼくは君の身柄を拘束しなけりゃならない。」
ハウシンカは平手で、セトを打とうとする。
セトは、その手を掴んだ。
その頃、ローランドは馬を走らせていた。
ローランドは、ルカーシを見つけると大声で報告する。
「ルカーシ、やっぱり奴らだ!魔導士はいない。転送しやすい不屍者がほとんどで、まとめて転送されたんだな…。20体ってとこだ。戦力的には大したことないが数が多いし、俺らにはちょっとやり辛いぜ!」
ルカーシは、満足だった。
何より早かったし、まずまずの正確さだったからだ。
「ありがとう、よくわかった。副長はいるか!」
中隊の副長は目の前の悪鬼を斬ると、叫んだ。
「はい、ここにいます!」
ルカーシはその場から、呼び掛けた。
「この場の指揮は、君が執るんだ!中隊長は、立派だったぞ。君も遅れをとるなよ!私は一個小隊を借りて、ヘムの村の救援に向かう。ゼクくんには、後でよろしく言っておいてくれ。第一小隊、集合!」
ルカーシの元に、騎士達が集まってくる。
ローランドは、ま、何とかなるかな?と考え始めていた。