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Black Swan -overload- 38

ここは影の国の中心にあたる城、「黒き子宮」。
最上階の王の間では、クリングゾール王が玉座に座り配下の者を待っていた。
影の国は、太陽が銀色で明るい光が射すことはない。
空はいつも不吉に赤く、銀色の太陽は決して沈まないのだ。
王の間も、青黒い闇に支配され明かりは灯っていない…。
そこには、竜の生首が飾られていた。
王の間の扉が開かれ、巨大な体の異形の者が入って来た。
上半身は人間だが、巨人と言っても差し支えない身長で、下半身はサソリである。
そして何より異様なのは、左腕がサソリの毒針になっていたことだ。
「お呼びでしょうか?ウリエスでございます。」
クリングゾール王は、不機嫌そうに言った。
「遅いではないか、ウリエスよ。私がお前を呼んでから、どれほどの時が経ったであろう?お前を呼んだ用も、無用になってしまうではないか!」
ウリエスは、巨大な頭を下げた。
「申し訳ございません。一頭の竜が大人しくなりませんで…。縊り殺していたのです。」
クリングゾール王は、つまらないそうに聞いていた。
「言い訳はよい…。出撃だ。オルト島に行け。」
ウリエスは、詳しく聞き出そうと努力した。
「そうは言われましても…。どれほどの戦力で、時期はいつに致しましょう?」
クリングゾール王は、癇癪を起こした。
「今すぐに、決まっておろう!戦力だと…?全軍である!お前が面倒を見ている、全ての竜だ。今のこの状況がわからんのか?」
ウリエスは、辟易した。
「申し訳ありません。竜共の世話が忙しく、全体の戦況までは頭が回らず…。」
クリングゾール王は気が変わり、違う話をする。
「そう言えば、お前の弟のな、狗香炉がいたろう?悪霊の騎士を率いていた…。」
ウリエスは、嫌な予感がした。
「狗香炉に何かありましたか?まさか、手落ちでも…?」
クリングゾール王は、ニヤニヤ笑う。
「ハッハッハ!滅んだよ。オルト島でな!」
ウリエスは、ショックを受けた。
影の国の者達でも、感情が無いわけではない。
胸を痛めたりはしないが、家族への愛着は存在する。
「そうですか…。死に様は、立派でしたか?」
クリングゾール王は、唾を吐いた。
「立派なものか!犬死だ…。犬コロのあいつに、相応しいだろう?」
ウリエスは、それでも逆らおうとは思わない。
影の国では、生まれた順序は絶対だ。
クリングゾール王は、尊大に言った。
「弟の末路が理解できたら、とっとと行くがよい!全軍を率いて、オルト島に向かった我が腹心、蛇と赤き竜に合流せよ!」
ウリエスは、考えている。
全ての竜を出撃させる…。
我等がこれだけ大きく動けば、必ず天使達やカトラナズについた悪魔達が動き出すだろう。
一気に片を着けなければならない…。
ウリエスは、深く頭を下げた。
「御意に…。」
ウリエスが退出すると、クリングゾール王は脇に控えている魔導士を呼んだ。
「次は、ルネだ。ルネを呼べ、早く!」
魔導士は、奇怪な詠唱を始める。
すると絨毯の上に、赤く黄色い光が奔り魔法陣が現れた。
魔導士は、尚も呪文の詠唱を続ける。
やがて、漆黒の鎧をまとった一人の騎士が現れた。
「よく来たな、ルネよ…。」
ルネと呼ばれた騎士は、長い銀色の髪を後ろで束ねている。
肌はダーク・エルフ特有の青白い肌で、顔立ちは端正だった。
「お呼びでしょうか?クリングゾール様…。」
ルネは高い身長を低く屈めて、跪く。
クリングゾールは、そうしたルネの態度に満足そうだ。
「ルネよ。お前に、悪霊の騎士全軍を任せる。活躍を期待しておるぞ…。」
ルネは巧みに、クリングゾール王に取り入る。
「狗香炉は、どうしました?悪霊の騎士は、狗香炉にお任せになっていた筈では…。」
クリングゾール王は、我が意を得たりとばかりに語り始めた。
「あいつはにはな、わざと達成出来ない任務を与えたのだ…。全体の十分の一にも満たない兵力で、オルト島の占拠を命じた。何故だか、わかるか?」
ルネは、身を一際低く屈めた。
「ご深意、計りかねます…。」
クリングゾール王は、気分良く話を続ける。
「そうだろう、そうだろう!あいつはな、愚かにもこの私に意見したのだ。もっと、兵達を大切にしろなどと抜かしおった!ふざけた話ではないか?造ったのは私だ。どう使おうが、わたしの勝手ではないか!」
ルネは、顔を上げた。
「お話、至極もっともでございます。思えば、あの狗香炉は愚かでした。全体の戦局を見ず、瑣末な事柄にばかりこだわり…。」
クリングゾール王は、充分納得出来た。
「そうだ、奴には大局的な視点がない…!なあ、ルネよ。お前はあの、犬コロと同じ間違いはするなよ?誰を敬わなければならないのか、よく考えろ…。」
ルネは、再び面を下げた。
「我等にとって、何より尊いのはレミロ様。そして、蛇…。今はザハイムとお名乗りでしたな。しかしその全てを造り、全てを始められたのは、クリングゾール王であらせられます。」
クリングゾール王は有頂天になり、王笏を振り上げた。
「その通りだ!やはり、お前という男は物がわかっておる…。これからも、このクリングゾール王に尽くせ!」
ルネは、丁重に頭を下げた。
「仰せのままに…。」
ルネは王の間を退き、扉を閉めると呟いた。
「フン、豚め…!精々、いい気になっているがいい。」