二人の預言者 4

エリヤは相変わらず、人気のない道を選んで歩いていました。

カルナは、その後をトボトボ、ついていきます。

エリヤは、これまでの旅で、一度も物盗りや山賊の類に、出会わせたことが、ありません。

それは、エリヤに言わせれば、「わしは、運がいいからさ。」という事でしたが、実際には違います。

エリヤは、普通の人には見えない、細い糸の様な、神様のお導きを頼りに、道を選んでいるのでした。

カルナは、かったるそうに、エリヤに呼び掛けました。

カルナ「ねぇ、おじいさーん!街に行こうよー。あたし、ハンバーグが食べたーい。おじいさんって、パンの他に、ピーナツバターしか、持ってないんだもーん。あたし、ピーナツバター嫌だー。嫌ーい!」

エリヤは、うんざりしながら、一人でブツブツ言いました。

エリヤ「うるさい女だ。だからわしは、道連れなんぞ作りたく無かったんだ。やっぱり旅は、一人がいい…。風の向くまま、気の向くまま。旅先で出会った人との、心温まる交流…。」

カルナ「それにさー、あたしたまには、ベッドで寝たーい!仕事してた時は、いーっつもフカフカのベッドで、休んでたんだよ?おじいさん、どんだけお金ないの?野宿、野宿でさ。魔法で、出せばいいじゃーん!」

エリヤは根負けして、叫びました。

エリヤ「うるさい女だな!全く。わかった、わかったよ!この先に、大きくはないが街が、ある。そこへ、立ち寄るとしよう。だが、今晩だけじゃよ?わしは、街は苦手なんだから…。」

カルナは、飛び上がりました。

カルナ「やったー!さーいこーう。じゃあ、早く行こうよ!これで、ピーナツバター以外の物が、たべられるぅー。」

カルナは、急に駆け出し、エリヤを追い越して行きました。

こうして、二人は街に入りました。

エリヤは、お金をそんなに出さず、小さな貧しい宿を、とりました。

カルナ「何これー?あたしが想像してたのと、ちがーう!でもまあ、いいや。あたし、ハンバーグ食べてくるから!お金ちょうだい。」

エリヤは、少し多めに(とは言っても、それはエリヤにしてみれば、でしたが)金貨を渡しました。

エリヤは、カルナがいないその一時だけ、久し振りに一人の時間を過ごせました。

大好きなウィスキーを、ちびり、ちびりと舐めながら、スライスした玉ねぎを、マリネした物を、かじっていたのです。

カルナは、何時間かすると、酔って顔を真っ赤にしながら、戻ってきました。

カルナ「おじいさん、ありがとー!皆んな、飲んじゃったー!うん?もちろん、ハンバーグは食べたよ。もう、お腹いっぱい!でさー、帰りにいい飲み屋を見つけちゃって。そこの角なんだけど、なんと店員さんが、超イケメンなの!でも、振られちゃったー、あははは!」

カルナは、酒臭い息を吐きながら、エリヤに抱きつきました。

エリヤ「こら、何をする!バカ者、止めんか!」

エリヤは思わず、勢いよく突き飛ばして、しまいました。

カルナは、酔っていたせいもあって、よろめいてドスンと、尻餅をつきました。

カルナ「ひどいよぉー、うぇーん!皆、あたしのことなんて、どうでもいいんだー!」

カルナは、泣きじゃくりました。

エリヤ「ほれほれ…。今のは、わしが悪かった。これで、涙を拭きなさい。」

エリヤが取り出したハンカチは、お世辞にもきれいとは、言えませんでした。

カルナ「こんなので、顔を拭けなんて、バカにしてるぅー!誰もあたしを、愛してくれないんだ!さみしいよー!」

エリヤは、下まで降りて行って、きれいなハンカチを、借りてきて、カルナに手渡しました。

カルナ「えへへ。じゃあ私の事、抱いてくれる?」

エリヤ「お前さんは、とんだバカ者じゃ!いやカルナ、よくお聞きなさい…。わしはな、天国でキリスト様に仕えている、預言者エリヤというものだ。この際だから、全て正直に、話してあげよう…。わしだって、若い頃は遊んださ。遊んだ女だって、百人は下らない。」

カルナ「すごーい。おじいさん、強いんだね!あたしが寝た相手は、52人かな?おじいさんには、負けるね!」

エリヤは、妙なところだけ、細かいんだなと、思いながら、続けました。

エリヤ「だかね、何人の女性と遊ぼうと、いつまでたっても、心は虚しいままだった…。そんな時、今の妻と出会ったんだ。それから、わしは変わった。神様の教えに、積極的に従うようになり、今では聖人と呼ばれるようになった…。だからね、カルナ。大切なのは体の関係じゃないんだ。愛なんだよ、愛。わかるね…?」

カルナ「うんあたしもね、イケメンでお金持ちなら、誰でもいーよ。後、あたしより背が高ければ。何か、眠くなっちゃった…。じゃあ、おやすみなさーい。」

カルナは、寝てしまいました。

後に残されたエリヤは、再びウィスキーの栓を開け、懐から取り出した、ゴールデンバットに火を点けました。