読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

美しき詩人の愛 1


f:id:ootmarsum:20141220232454j:plain
福音史家ヨハネは、悩んでいました。
新作「頼りない天使」という物語が、どうしても完成しなかったのです。
ヨハネ「ぼくは、どうしちまったんだろう?構想は、あるのに…。物語が、活き活きと動き出さないんだ。今まで、こんな事無かったのに…。」
これまでのヨハネと言えば、物語の着想を得ると、一気に書き上げて、天国で発表するのが、常でした。
ヨハネ「適当でいいんだ、適当で。それでも、人物達が命を持って、まるでそこに生きているかの様に、語り出さなきゃ、書く事は出来ない。何故だろう…?何が原因だって、言うんだろう?」
ヨハネは脳裏に、マグダレーナの顔を、思い描きました。
マグダレーナの顔は悲しげで、決してヨハネの方を見ようとは、しませんでした。
ヨハネ「あの顔が…、あのおばさんの顔が、喜ばしいものに変わった時、この物語は終わりを告げる、そんな気がする。全く、あんなおばさんが何だって言うんだ!面白くもない…。」
ヨハネは気晴らしに、ペトロとおしゃべりをする事に、しました。

ペトロは、少し迷惑そうでした。
ペトロ「なんだい…?今、悪いけど忙しいんだよ。用なら、手短にしておくれ。」
ヨハネは、物語が完成せず、悩んでいる事を、告げました。
ペトロは、やれやれ、といった感じで答えました。
ペトロ「そんな事は、作家にはありがちな事だろう…?君だって、初めてじゃあるまい。仕事には、誰でも少しぐらい、悩みはあるものだよ。」
ヨハネは、傷つきました。
ヨハネ「いや、今度のはそうじゃない。ただのスランプとかじゃ、ないんだ…。ぼくの心には、何かしら見えない棘の様な物が、刺さってる。それを引き抜かない限り、詩の女神は、決してぼくには微笑まない。」
ペトロは、バカバカしげに、笑いました。
ペトロ「詩の女神って、まさかマグダレーナの事じゃないだろうな?君、いい加減にした方がいい。あの人は、決して君の方には、振り向かないから…。」
ヨハネは恥ずかしくなって、顔を真っ赤にしました。
ペトロは、少し意地悪く、続けました。
ペトロ「まあ、君の様な器量好しは、我々凡夫と違って、挫折を知らんから…。ちょっと、袖にされたぐらいで、大層に騒ぐがね、恋愛なんて、当たったり外れたりで、それが当たり前だ。むしろ、君の今までが、上手く行き過ぎたんだ。いい薬だよ…。」
ヨハネは、反論してやり込めてやりたい気持ちでした。
そして、今までなら、そう出来ていたのです。
しかしここのところ、思っている事が、上手く言葉にできないのでした。
ペトロ「ヨハネ君。鬱憤が溜まって、仕方ないと言うのなら、こっそり地上に降りて、娼婦でも買いたまえ。君にとっては、屈辱かもしれんが…。しかし、男の悩みなんて、案外そんな事で、晴れてしまうものさ。」
ペトロは、行ってしまいました。

ヨハネは中庭で、雲が流れていくのを、眺めていました。
空は、とてもいい天気でしたが、ヨハネの心は晴れません。
そこに、ティーセットを運んで、マグダレーナがやってきました。
マグタレーナ「あら、ヨハネ。新作は出来た?私、楽しみにしてるのよ。」
こうして現実のマグタレーナは、ヨハネの思い描くマクダレーナと違って、少しも悲しげでは、ありません。
むしろ、笑顔そのもの、といった感じでした。
ヨハネは、複雑な思いで言いました。
ヨハネ「それがね…。途中までは、書けているんだ。ところが、最後の最後だけが、どうしても書けない…。そうだ!おばさん、ちょっと読んでおくれよ。もしかしたら、それがきっかけになって、物語が詩の泉から、流れ出すかも知れない…。」
マグダレーナ「光栄ね…。それは、大切な役目だから、喜んで引き受けさせて頂くわ。でも、意外…。あなたにも、そんな人並みな悩みが、あるのね。」
ヨハネは、少し悲しく思いました。