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遥かなる旅 18

二人の目の前に、悲しみの山の、巨大な峰が、迫ってきました。
その時二人の身に、不思議な事が起こりました。
一歩、また一歩と進んでいくうち、段々と目が見えなくなってきたのです。
アベルはおかしいと思い、エリヤに言いました。
アベル「エリヤ様、どうしたんでしょう。ぼくは、目が見えなくなってきました。エリヤ様はどうですか?」
エリヤは、頷きました。
エリヤ「うむ…。わしもじゃ、アベル。不思議じゃな。二人で一辺に、目が見えなくなってしまうとは。これはもしかすると、悲しみの山と関係があるのかも、知れん。」
アベルは、思い出しました。
アベル「もしかしたら、あの月明かりのカンテラ!あれを使えば、視界が開けるんじゃないでしょうか?」
エリヤも、同意しました。
エリヤ「そうじゃな、そうしてみよう…。では、アベル。月明かりのカンテラを出してくれ、頼む。」
アベルは、何も見えない中、手探りで月明かりのカンテラを、手繰り寄せました。
アベル「ありました、エリヤ様!今、火を点けます…。」
アベルが火を灯すと、辺りは真っ暗なままで、エリヤの姿だけが、ぼんやりと浮かび上がりました。
アベル「あれ、おかしいですね…。何も見えない。ぼく自身の姿も、見えません。エリヤ様だけが、宙に浮く様に存在している…。」
エリヤは、アベルの方に手を伸ばしました。
エリヤ「どれ、わしに貸してみなさい…。」
エリヤが手に取ると、辺りは光輝き、山頂まで全てが、見渡せました。
アベルは、首をひねりました。
アベル「何かぼくのやりようが、不味かったんでしょうか?エリヤ様が、手にしただけで、こんな…。」
エリヤは、咎める風ではなく、落ち着いて言いました。
エリヤ「イザヤの言葉によれば、山頂への道は、求める者のみに、開かれるという…。お前さんはが求めていたのは、星々の頂に秘められた、神秘ではなかった、という訳じゃ…。」
エリヤは、恥ずかしくていなくなってしまいたい、そんな気持ちでした。
二人がそのまま、悲しみの山に近づいていくと、青白い曲がりくねった山道が現れ、見上げればそれは、頂へと通じているのでした。

二人は、山道を登って行きました。
道は、結構な急勾配でしたから、それなりに足腰には負担でしたが、道そのものは平らで、歩きやすい道のりでした。
アベルは、ふと思いが湧き、エリヤに話しかけました。
アベル「エリヤ様…。」
エリヤは、何かムズムズしていました。
アベルは、ゆっくり口を開きました。
アベル「ぼくはこの旅で、自分が如何に至らないかを、思い知らされました。きっとエリヤ様は、その事でぼくを戒める為に、この旅にぼくを同行させようと、そう考えたのですね。」
エリヤは何となく、気に入らない思いでした。
エリヤ「そんな事はない…。わしは、お前さんを買っておる。そうでなければ、わざわざ手間をかけて、連れ出したりはせんよ。」
アベルは、カチンときました。
アベル「ほら、そうじゃありませんか!わざわざ手間を掛けてなんて、本当にぼくを買ってくれているなら、そんな言い方をするはずが、ないんです。その言い方が、何よりの証拠ですよ。」
エリヤは、イライラしていました。
しかし、、何にイライラしているのかわからない。
それが最もイライラしました。
エリヤ「アベル…。それは、言葉のあやというものじゃ。そんな小さな事に、こだわってはいかん。お前という人間を、小さくするぞ…。」
アベルは、傷つきました。
いや正確には、そんな気がしました。
アベル「やっぱりエリヤ様も、ぼくの事を田舎者の、何も知らない少年だと、思ってるんでしょう。ええ、その通りです。ぼくにも、異論はありませんよ。でもね、ぼくにだって、プライドがあるんですよ。ぼくなりにね!」
エリヤは、叫び出したいような、気分でした。
それをあと少しで、アベルにぶつけそうだったのです。
エリヤ「アベル、お前さんは、理性を失っておる!固い意志の力で、理性を…。」
エリヤはその時、気が付きました。
全ては、この悲しみの山が、原因だと。
この山では、理性は強く働く。
しかし、感情が失われて、人の心は虚無に傾くという事が。
エリヤは自分自身の、ハッキリとした意志を、取り戻しました。