Black Swan -overload- 28

「隊長、見えますか?あそこです!あそこに、サモン・ジェネレーターが…。」

騎士の一人が叫んだ。
「よし、ガトル…。お前の死は、無駄にはならなかったぞ!」
隊長と呼ばれた騎士は、傷付いたもう一人の騎士に肩を貸している。
「どうしますか?我々二人だけでも…。」
飛び出そうとする騎士を、隊長が諌めた。
「我等の任務は、サモン・ジェネレーターの発見だ。無理はしなくてよい。戻って、ルカーシ殿に報告するぞ!デメル、もう少しがんばれよ…。」
隊長は肩を貸している騎士を励ますと、もう一人の騎士と共に撤退していった。
それからしばらく時間が経過する。
ここは、ヘムの村のザハイム研究所発掘現場に建てられた研究棟の一室である。
聖コノン騎士団は、ここを臨時の作戦司令室として借りていた。
ルカーシと隊長クラスの騎士数人、それにゼクとソクロがいる。
ローランドは、先の戦いの傷がまだ癒えていなかった。
医務室で休んでいる。
指揮棒を手にした中隊長が、地図上を指し示しながら確認した。
「当初予想された、サモン・ジェネレーターの位置はここになります。そして、三日前に我々が解除したサモン・ジェネレーターはここ…。」
中隊長はルカーシに確認しながら、話を進める。
ルカーシは、静かに頷いた。
「そして、先ほど発見された物がここです。」
ルカーシは、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「…おわかりだろうか、諸君?このサモン・ジェネレーターの配置は、恐らくドラゴンの召喚であろう…。」
隊長達に、動揺が走った。
場がざわつく。
ルカーシは、静かに続けた。
もしドラゴンが喚び起こされれば、聖コノン騎士団が総力を挙げても、食い止められない。…何としても、ドラゴンの召喚は食い止めなければならない!」
ゼクは、口を挟んだ。
「まだ、チャンスはあるぜ…。このオルト島でドラゴンを召喚するには、どうサモン・ジェネレーターを配置しても、ここ…。」
ゼクは、ヘムの村の展望台を指差す。
「ここには、一基必要になるんだ。小さな島だからな…。ここさえ押さえられば、勝機はある。だが逆に言えば、奴らだって死ぬ気で取りに来るだろう。」
隊長達は、再びざわつき始めた。
ルカーシは思案している。
「当初予想されていたサモン・ジェネレーターは、実際にそこにあると仮定しよう。そして、新たに発見された一基。ドラゴンの召喚には、最低三基必要になる…。どうだろう、ゼクくん。いつが決戦になると思う?」
ゼクは、結論を出した。
「奴らの戦力の消耗を考えれば、これ以上戦いを長引かせるのはもう無理だ。そして俺達は、一基解除してる。いいか?追い詰められてるのは、奴らなんだ!俺の予想では、数日中に本隊をぶつけて来るだろう…。」
ルカーシは、深く頷いた。
「私も、そう考えていた。恐らく狗香炉も出て来る…。」
その名を聞いて、ゼクの目が怪しく光った。
「.なあ、ルカーシ。俺が作戦を立てちまっていいか?」
ルカーシは、慎重に言葉を選ぶ。
「喜んで聞かせてもらおう。提案は、大歓迎だ。」
ゼクは中隊長から指揮棒を取り上げ、説明し始めた。
「よし、みんな安心しろよ。この戦いは、そんなに難しくない…。先ずここだ。狗香炉達が、ヘムの村の展望台に入ろうとすれば、必ずこの一本道を通らなきゃならないんだ。」
ゼクは指揮棒で、山道を示す。
「俺達は、部隊を三つに分ける。一つは、囮。一つは、迎撃。一つは、挟み撃ち用だ。」
ゼクは、山道の展望台から近い地点を指した。
「ここに、囮部隊を配置する。囮部隊は待ち伏せして、奇襲攻撃を行った後すぐに撤退する。」
次に、展望台からヘムの村へと続く村道を示す。
「ここには、迎撃部隊を置く。囮部隊は、迎撃部隊と合流して、狗香炉達を迎え撃つ。」
中隊長が聞いた。
「挟み撃ちは、どこで行うのです?」
ゼクは、展望台の入り口を示した。
「ここに潜むんだ…。奴らが展望台に入り切ったら姿を現し、挟み撃ちにする。どうだ、異論のある奴はいるか?」
隊長達は、皆頷いている。
「ルカーシ、これでどうだろう。もっと、いいアイディアがあるか?」
ルカーシは、引き締まった表情で言った。
「いいと思う。現時点では、最善の策だ…。みんな聞いてくれ!我々は、この戦いに一個中隊を投入する。残り二個小隊は、守りに当たる。恐らく、これが最大の戦いになるだろう。」
ルカーシは一度言葉を切り、大きく息を吸って再び語った。
「この戦いの前に、皆に竹鶴の21年を振舞おう!死ぬなよ、生きて戻れ!」
隊長達は、「おう!!」と応じた。
ローランドは、同じ建物の医務室にいる。
ミミカが医務室の扉を潜ると、ローランドはいびきをかいて寝ていた。
ミミカが毛布を直すと、ローランドは目を覚ました。
「ミミカちゃん、来てくれたんだね!俺は君を守る為に戦ったんだ!」
ミミカは、溜息を吐いた。
「随分、無理をしたみたいですね…。」
ローランドはご機嫌だ。
「そんなこたぁどうでもいいさ!そうそう俺、暇だから君に手紙を書いたよ。初めてだから、上手くいかなかったけど…。」
ミミカは、微笑んで受け取った。
「ゆっくり、休んで下さい。」
医務室を出て、手紙を眺める。
「汚い字…。」
ミミカの緊張が、フと緩んでいった。