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Black Swan -overload- 6

ハウシンカは再び横になり、毛布を体にかけようとした。
「主任、主任!開けて下さい、緊急事態です!」
声から察するに、トルカ研究員だろう。
ハウシンカは、ゾッとした。
遺跡が、何かを起こしてしまったのでは?
急いでドアを開けた。
「あの…その…、大変なんです!」
ハウシンカは威厳を保ち、毅然とした態度で質問する。
「どうしたの、落ち着きなさい!ちゃんと話して。」
「私が、説明しますよ。」
後ろに控えていたソクロが、前に出てきた。
ソクロは、既に甲冑に身を固めている。
「どうしたんですか、その格好?何があったんです!」
ソクロは、ハウシンカの肩を優しく叩いて、こう言った。
「落ち着いて下さい。ハウシンカさん…。順を追って、話しますから。取り敢えず、着替えを済ませて下さい。」
ハウシンカは、顔を赤くした。
動転しているのは、私じゃないか…。
ハウシンカは扉を閉ざすと、簡単に着替えを済ませた。
ソクロによると、状況はこうだ。
今から一時間余り前、二騎の黒き騎士が研究所の敷地内に侵入した。
これは当直の警備兵達と、すぐに事態に気付いたゼクとローランドによって撃退された。
事態を怪しんだゼクは、警備兵達と協力し発掘現場周辺の状況を確認する。
すると、松明を持つ何騎かの黒き騎士達が目撃された。
周辺にはヘムの村しかない。
軍事的に何の意味も持たない、この発掘現場を黒き騎士達が狙うというのは通常考えられないが、連中の性格を考えると対応せざるを得ない、とのことだった。
ハウシンカは、言った。
「この地域を担当している、聖コノン騎士団に連絡しなさい!私が、指揮を執ります。」
トルカは、おずおずと口を開いた。
「それもゼクさんの指示で、既に出発しています…。」
ソクロは、穏やかに諭した。
「ゼクさんは、最初に黒き騎士が侵入した時点で、聖コノン騎士団に人を派遣してるんです。大丈夫、彼に任せなさい。」
ハウシンカは不思議な安心を感じたが、駄々っ子の様に抗った。
「でも…、そうだ!村の人達は?ヘムの村の人達はどうなるんです。」
ソクロはため息を吐きながら、ハウシンカに告げた。
「ゼクさんからの伝言です。村の連中の命までは、保証しない。だけど、アンタの命は守ってみせる。だ、そうですよ…。」
ハウシンカは力が抜けて、その場に座り込んでしまった。
「バカ野郎、かがり火なんて炊くな!!こっちの居場所を知らせてる様なモンだろうが!」
ゼクの怒号が、広場にこだまする。
ローランドが、ゼクに駆け寄った。
「おい、ゼク!ありったけの針金を、用意して来たぜ。」
ゼクは全員に聞こえる様、声を張った。
「村へと続く山道は、ローランドに任せる。みんな、彼の指示を仰いでくれ。分担は、わかってるな?よし、じゃあこれから準備に取り掛かるぞ!二人一組になって、針金を木と木の間に張るんだ。出来るだけ低くな!これで、馬の足を潰す。そしたら、近くの茂みに隠れて、落ちた奴の止めを刺すんだ!いいか、こっちからは絶対に仕掛けるな!止めを刺すだけにしろよ!!」
ローランドは、ニヤッと笑う。
「弓が使えるのは、こっちで借りるぜ?」
ゼクは、すぐに答える。
「ああ、それでいい。二頭残ってる馬は、こっちでもらう…。おい、お前達!馬に乗れるよな?」
準備に追われている警備兵二人に、呼びかける。
この二人は、こういう状況に慣れていないのだろう。
ドキマギしながら、頷いていた。
「じゃあ、馬に乗ってくれ。松明を使っていいから、それで巡回するんだ。…もし黒き騎士達に突破されたら、その時は頼むぞ!」
ゼクは、残った三人を呼び集めた。
「俺たちは、正面の登山道を固める。安心しろ!多分、奴らは俺たちの場所はまだ知らないんだ。正面から来る可能性は、殆どない…。そうだ、こいつを渡しとく。」
ゼクは背のうを下ろし、中から黒いボールの様な物を取り出した。
「こいつはな、ソクロから借りた爆弾だ。殺傷力はないが、火を点けてしばらく経てば、すごい光を放つ…。この闇夜で、馬を驚かせるには充分だろう。よし、行くぞ!」
ゼクは先頭に立って進み、丁度良い所々に警備兵達を配置した。
ゼクは、嫌な予感がしていた。
彼の考えは、さっき語った通りだ。
敵は、恐らくこちらの場所を知らないし、こんな発掘現場なんて狙うはずがない。
準備して損はないから、そうしているだけの話であって、そんな大事にはなる訳はない…。
だが!
何かが、ゼクに語りかけている。
ここが、ここが一つの正念場だと。