Tomorrow Never Knows "産声と呼霊(こだま)の息吹Re:Mix"〜明日のコトだから、誰も知らない…〜(ボーナス・トラック3)

オープニング…

「時雨前」「黒」 Downy

downy - 「時雨前」「黒」 - YouTube

 

初橋高矢は、帰り道を急いでいた…。

時間は、夜10時を回った頃。

ライヴ・ハウス「セラフィム・フェザー」からの帰りである。

出演していた3つのバンド全てが興奮を促してくれたが、お目当てはトリをとったオルタナティヴ・アート・パンクバンド「セカンド・プライズ」だった。

「セカンド・プライズ」は男女混成四人組のバンドで…。

メイン・ヴォーカルを取るキーボード奏者とベーシスト・コーラスは、女性。

ギター・コーラスの担当とドラムスは男だった。

乾いたノン・エフェクトのシンプルなギター・リフにファズを連結した音程感の無くなっているベースがウネウネと絡み、そこに子供の頃からクラシックに親しんでいるキーボードのメランコリックなメロディが乗ってそしてドラムスは変拍子バキバキなのだから…。

高矢は「ロッキン・オン」等の雑誌で、彼女達の事を追っていた。

メンバーのインタビューでは現在のレコード会社「4サイクル・レコーズ」の居心地が随分いいらしく、メジャー・レーベルに移籍するつもりは全くないそう。

「いやぁ…。ホント良かったなぁ。」

まだ耳鳴りが止まない高矢のメッセンジャー・バッグの中には、物販で手に入れた「セカンド・プライズ」のTシャツが温まっている…。

「セカンド・プライズ」のグッズは、メンバー自身がデザインしていた。

今日買った"犬がノビて、ウ◯コ漏らしている"Tシャツは、ギタリストくんの手描きだった。

明日からは、また仕事だ…。

高矢の「心」は、まだ夢から覚めてない。

この夢がずっと続けばいいのに…、と高矢は月に想う…。

高矢は今年32歳。

自営業で、親父から受け継いだ喫茶店をやっていた。

店の名前は「ブルー・トレイン」…。

偉大なるジャズ・ジャイアント、ジョン・コルトレーンのアルバムから取って喫茶店の名前を変えてしまったのだった。

親父の代ではフツ〜の街の喫茶店だったが…。

高矢は何とか資金をやり繰りして、本格的では無いがカンタンなジャズ喫茶に改装した。

「ブルー・トレイン」の店内では、ジャズの名門「ブルー・ノート」のレコードしか掛からない…。

その為フツーのジャズ喫茶に比べれば圧倒的にレパートリーに欠けたが、高矢は気にしなかった。

お客さんもそれなりに着いている。

郊外の喫茶店で"Jazz"を聴かせているというコトで、それなりに話題にもなりそこそこ遠方からもお客さんがやって来る…。

高矢にとってイチバン嬉しいお客は、高校生だ!!

面白半分で「ブルー・トレイン」の扉を潜った一グループの高校生の一人が…。

「スンマセン…。このアルバム、何ていうタイトルですか?」

と聞きに来る瞬間といったら!

高矢はつい熱意を帯びてしまって…。

「このピアノ奏者はね、トミー・フラナガンと言って…。名盤請負人と呼ばれる程…。」

ついついウンチクが口の端から、ボロボロとこぼれ落ちてしまう。

店の業績は人に誇る程の物では無かったが、それなりに遊びながら食っていく分には不足しなかった…。

ある日高矢は店番をしながら、インスタグラムをチェックしていた。

誰もいない店内で、眺めているのは「セカンド・プライズ」のメンバーのアップする写真である。

高矢は「セカンド・プライズ」のメンバーの中でも、特にベースの如月真由美が好きだった。

理由は簡単で、おとなしく可愛らしかったからである。

彼女のベースは伝え聞くトコロによるとアイバニーズの…、Nirvanaクリス・ノヴォセリック使用機材と同じモデルらしい。

真由美は、まだ20才だ…。

ハッキリ言って彼女に催していたし、夜中に想像してそ〜ゆうコト☆をしたりもしている。

高矢には恋人がいなかった。

別に、どうしてもというホドモテなかったワケではない。

ただまぁ、メンドくさかっただけのハナシだ…。

だってそうだろう?

実際に付き合ったりすれば、金も掛かるし時間だって拘束される。

それだったら一人でノンキにプラプラして、好きなコトしてたホーがいいじゃないか!!

好きなコト想像する分には、自由なんだし!

程度の、面倒くさがり屋だっただけである…。

ともかく彼は、真由美のインスグラムにアップした写真を眺めていた。

秋らしく何輪もの"コスモス"が、風に揺れている。

そこに青白いフィルターが掛けられている、何の変哲も無いインスタグラムであった…。

しかし高矢は、「何か」違和感を感じた。

彼女の色彩感覚は独特だとの、専らの評判である…。

高矢も他の誰とも変わらないただ単純に面白がって、真由美の"不思議ちゃん"っぷりを可愛らしく思っていた。

しかし…。

しかしである。

普通の人間の感覚で、こんな風に"コスモス"から印象を受けるのだろうか…?

多分に違和感を感じはするが、説明は出来ない。

「こんにちは。マスター…!」

カランカランと入口の扉に括りつけた呼び鈴が鳴り、お客さんがやって来ると高矢はもうその事をわすれてしまった…。

また別なある日…。

高矢は油井正一氏の「Jazz歴史物語」をお客さんを待ちながら、煙草を吹かしてよんでいた。

そこにはニュー・オリンズで始まったクレオールのジャズ・バンドが、どうやって今日呼ばれる様な形態の"Jazz"に成ったのが逐一丁寧に追ってある。

様々な興味深いエピソードが列挙されていたが、彼が気になったのはビ・バップ、ハード・バップの頃のジャズ・メン達のライフ・スタイルだった…。

その頃のジャズ界隈には相当な麻薬汚染が進んでおり、才能があり卓抜した技術を誇る歴史にその名をきざんだジャズ・ジャイアント達もドラッグで数多く命を落としたと書かれていた。

そこまで読んだ時、高矢にはある閃きが訪れた。

「あれ…。彼女、ドラッグキメてんじゃないの?」

高矢がそんなコトありっこないよなぁと考えるより早く、彼女が今までにアップして来た写真が走馬灯の様に想いを巡らせる…。

彼は間違いないと思った。

しかし間違いないと言ったって、何もしようがないし出来っこなかった。

それからの日々もいつもと何も変わらず、喫茶店「ブルー・トレイン」を経営したまに「セカンド・プライズ」が近くのライヴ・ハウスに来れば観に行った…。

そんな過ぎて行く日々の中、真由美のインスタグラムは徐々にエスカレートしたある種のショッキングな過激な写真になっていったが、誰しもがそれは彼女の表現でありチャーミングな魅力であると誰しもが受け入れている。

そしてそんな日々が、およそ一年過ぎた。

そしてある日、彼は心に決めた。

真由美を止めようと…。

何故なら、そんなのヤだったからだ!!

彼は、真由美はおとなしい清純な娘でいて欲しかった。

どうしたらいいかわからなかったので、手紙をプレゼントに添えてライヴ・ハウスに預ける事にする。

何の意図で書かれた文章なのか説明出来なかったので、店の住所を書いて"宣伝"であるという体裁を取った…。

すると、不思議な事が起こった。

何と、数日後彼女が喫茶店「ブルー・トレイン」に現れたのである!

 

「Mirador」 Efterklang

Efterklang Mirador - YouTube

 

カランカランと呼び鈴が鳴った時…、真由美の姿がそこに現れたのだから彼が度肝を抜かれるのも無理はない…。

高矢は、すぐにでも話したかった!!

すぐにテーブルに飛んで行って、「俺、あなたの大ファンなんです…!!是非握手して下さい!」とか何とか言いたかった。

だが常識で想像すればわかる通り、そんなコトをする人間はいない…。

高矢は普通の態度で接客し、彼女は窓際の席に座り外を眺めてコーヒーを飲んでいる。

その間もお客さんは入れ替わり立ち代わり何組も入ったが、「セカンド・プライズ」の存在はそこまでメジャーではない。

誰も、真由美の存在に気を留める者はいなかった…。

やがて日も暮れ、閉店の時間になった。

真由美はあれからずっと同じ席に座り、何も言わず何もせずただ黙って窓の外を見詰めていたのである。

彼は、真由美に声を掛けた…。

「あのお客様…、そろそろ閉店の時間になりますので…。」

その時、真由美は初めて口を開いた!!

「あなた、幾ら欲しいの…?払える範囲内で払ってあげるから、言って!!」

高矢は、真由美が何を言っているのかわからず首を傾げる。

「現在はね…、私達"セカンド・プライズ"にとって大事な時期なの…。"E"のコト黙っててくれるなら、お金は払うから!さぁ、言いなさいよ!!」

彼は言った。

「"E"って、ナンです…?ぼくには、何の事だかサッパリ…。何か、話があるんですか?」

真由美はカッとなって、テーブルをドンッ!!と鳴らす。

「話が…あるですって!?あなたでしょう、先に仕掛けて来たのは!!いいわ…、受けて立って上げる!」

高矢は今更になって、自分の手紙の内容を思い出した。

「ああ…、あの手紙のコトですか。いや、お金とかじゃ無くて…。そのぼくは…、あなたにドラッグを止めて欲しくて。」

彼女は、顔を真っ赤にして立ち上がった。

「そんなの、私の勝手じゃない!!あなたにどうこう言われる筋合いは、無いわ!」

高矢は恥ずかしそうに頭をかく。

「いや〜、そうだとは思うんですけど。ぼく…、あなたのファンなので。」

「ファン」…。

その一言は、真由美にとって痛かった。

プロ意識の高い彼女にとって、「ファン」の意向は無下には出来ない…。

「わかったわ…。取り敢えず話を聞かせてちょうだい。幸い今日は空いてて、時間はあるから…。」

高矢は有頂天になって、飛び上がりそうになる。

「じゃあ、先に閉店業務終わらせてきちゃっていいですか…?一時間で終わらせますんで!」

真由美はもう半分ヤケクソで…、なるようになれ!!と思いながら頷いた。

彼の心はもうウキウキして、そのまま翼が生えて飛んで行ってしまいそうだ。

いつもは嫌で嫌でしょ〜がない閉店業務も、まるで次に掛けるレコードを選ぶ様な夢見心地で時間が過ぎて行く…。

一方の真由美の心は、ソワソワして落ち着かなかった。

どうやらこの高矢というのは、それホド悪い人間であるようには見えないが…。

それでも意図の全く読めない言行に、警戒を解く訳にはいかない。

彼女が既にシャッターの降りた同じ窓際の席に腰掛けていると、ニヤニヤとだらしなく笑いながら高矢が缶コーヒーを差し出しながら席の向かい側に腰を落とした…。

「あなた、喫茶店のマスターなのに…。そんなモノ飲むワケ?」

高矢は缶のプルタブを音を立てて開栓し、ゴクゴクと飲み始める。

「あの〜…。煙草吸っていいですか?」

彼女はイライラして、キツい口調で返事をした。

「いいわよ?"ファン"、ならね…?」

真由美の皮肉を真に受けた高矢は、遠慮せずに火を点ける…。

「よかった…。やっぱ、いい人なんだ…。」

彼女は、今の言い方が気に喰わない。

ミュージシャンに求められているのは音楽に携わる才能であって、人間としての道徳性ではない…。

事実破天荒であったり、明らかな社会不適合者であっても才能があれば否定されない。

「ぼくね…、思ってたんです。あ〜いう激しい音楽を演るのは、決して気が狂ってるからじゃないんだ。世の中は、何か間違ってる…。だからその歪みを表現してるぐらい、ちゃんとした人達なんだ!!って…。」

真由美は思わずイラ立ちを、口に出してしまった。

「あなたね…。何言ってるのよ!!私なんて、…ヤク中じゃない!何がマトモなのよ…!!常識で、考えなさいよ!」

彼は、キョトンとして問うた…。

「えっ?だって、多分何かツラいコトがあるんでしょ…?」

真由美の背筋を電撃が疾った…!!

そして図星を突かれたが故の、逆上した怒りが湧く!

「アンタねぇ!!初対面の人間に向かって、そんなの失礼でしょ!!誰だってツラいコトなんて、あるのよ!自分だけが特別だなんて思わないでよね!!」

高矢はよくわからず、ボンヤリとして話した…。

「いや…、ぼくのコトじゃなくて…。」

真由美は、呆然として自問していた。

何故この男は、私の感情をかき回すのだろう…?

何故私はそれに、抗えないのだろう…?

考えてみれば、今日今ここにいるのだってワケがわからない…!!

「いいじゃない…!!そんな事、何のカンケーがあるのよ!大体あなた、何様よ!?ファンだか何だか知らないけど、ただお金払ってるだけじゃない!!それが、何だって言うの!どれだけ偉いのよ…!!」

彼女は、ハッとした…!!

いけなかった。

思わず言い過ぎてしまった…!

「どう…?失望した?これが、私のホントウの姿なのよ…!!ステージの上で見せてる姿は、単なる"可愛い娘ブリッ子"ってワケ!」

プロとして失格だという想いに真由美が恥じらっていると、高矢はノ〜ンビリ答えた。

「いや〜…。やっぱ顔が可愛いと、何しても可愛いなと。」

真由美は、ある特異な事実に気がつく…。

おっとりとしていておとなしいのは、別に作ったキャラクターじゃない。

私のフダンの姿なんだ…。

でもそれがなぜ…。

という問いが思い浮かぶよりも速く…、自分でも予想もしなかった言葉が口から溢れ出ていた。

「私…、レイプされたのよ。」

高矢は、しまった!!と思う。

踏み込んではいけない領域に、軽率に足を踏み入れてしまった!

だが真由美は止まらない…。

「18の時に参加したレイヴ・パーティーで、ちょっとね…。あの時はもう、グデングデンに酔っ払ってたから。誤解しないで…。あの時は、まだクリーンだったわ…。その後よ。"E"に手を出したのは…。」

彼は苦しかった…。

あれこれと想像を巡らせてみても、実感が追い着かない。

何しろ、マイペースで地味な人生を送って来ている…。

遊んでおかなかった事を真剣に後悔している。

もしあの時…、ソープ・ランドに行っておけば…。

真由美の独白は続く。

「それ以来…、私セックスが出来なくなったの。そんな時よ、今の彼が"E"をくれたのは…。今だって"E"が無きゃ、セックスなんて出来っこない…!!ペ◯スなんて、見るだけでも吐き気がする…!どう…?これが私の…。」

高矢は、真由美の顔を引き寄せて…。

キスをした。

もちろん、思わずだ。

テーブルの上に並んだ、二本の缶コーヒーは二つとも地面に落ちて転がった。

「それは…、愛じゃない。」

顔を引き離した真由美は、うつむくと言った。

「もう、なんでもいいじゃない…。取り敢えず、メアド教えてよ。」

高矢はカウンターの中に引っ込むと、ボール・ペンでメモに自分のスマホのメール・アドレスを書き記す。

その様子を見ていた彼女はメモをひったくる様に受け取り…。

「じゃあ…。私は…、帰るわ。コーヒー、ごちそうさま。」

真由美を店の外に送り出すと、もう辺りは真っ暗になっていた。

煙草を吹かしている高矢に、戻って来た彼女の姿が目に留まる…。

「愛してる…って、今言ってくれたら…。付き合ってあげてもいーよ。」

高矢は煙草の煙を長〜く吐き出すと、胸を張って言った。

「君みたいな可愛い〜娘の"ファン"のぼくがさ…、夜君を想い浮かべてする事って言ったら一つしかないよね?」

真由美は背伸びして、彼に口づけすると甘い吐息を漏らす。

「じゃあ、許してあげる…❤️。あなただったら、もしかしたら…。想像出来るの…、何となく。…だから、ちょっと覗いてみたいな。」

そう言うと真由美の影は、暗い夜道に混じって消えた。

落ち着かない高矢が何本も煙草をモクモク吹かしていると…、ポケットのiPhone7がメールを着信する…。

「だから…あなたに愛されたくて、仕方ありません…。付き合って下さい!!」

彼女からのメールだ。

高矢は、小さくガッツ・ポーズをつくった!!!

 

テーマ曲…

「My Girls」 Animal Collective

Animal Collective - My Girls (2009) - YouTube 

 

おまけ

こんにちは、森沢修蔵です。

技術力向上の目的の為…。

つまりは「腕だめし」のボーナス・トラックも、第三弾です。

この作品は「心を傷付けられた女性」を男が話を聞く事で癒すという、割とありがちな物語にあえてトライしています…。

作品としては結構フィクショナルな無理のありそうな展開をわざと折り込んで、ストーリーのバリエーションを増やそうと試みました。

文章表現も、今までに培った技術を総動員して盛り上げるコトを狙っているんです。

色んな意味で、現在のぼくの全力投球がここにあります…。

ちゃんとしたホントに「シアワセ」が感じられるハッピー・エンドを構想したんですが、上手く出来てるでしょうか?

つまらないかも知れませんが…。

やっぱ恋人出来た時の、「やった〜!!」感って割と「最高」かな?と。

出来に関しての評価は、いつも通りみなさんにお任せします…。

少しでもプッと笑ったりホッとしていただけたら、もう言うコトありません。

物語書くのって楽しいなぁ!!!と、いつも改めて実感していま〜す!!!

それでは、失礼します?。