再臨物語again〜春馬町より愛を込めて〜 その16

「良太、…今だからお前にゆ〜が。…現在の恋人とは、付き合っても〜一年になるが。おれは…、まだエッピ💝していない」

そ〜ゆって、純平は灰皿に「マイルド・セブン」の灰を落とす…。

「だってお前、…"付き合う前に先ずエッピ💝しろ。…それで気に入ったら付き合え"、とか以前ゆってたジャン?」

良太にとって…、純平の言葉は意外であった。

「おれは、考えを少し変えたんだ…。確かに、…エッピ💝が目的で。…女性と、お付き合いするのは変わらん。だがな…、おれは気づいたんだ。エッピ💝してしまうと、も〜その女性には飽きてしまうんだよ…」

たんたんとした、…口調で語る純平。

…「現在の恋人は、おれにとって5人目の女性だ。だが…、これまで誰とも半年続かなかった」

純平の女性遍歴の華やかさは、良太もよく知っていた…。

「それは、…必ず最初にエッピ💝しゃうからなんだよ。…良太例えば、すし屋に入って。いきなり…、中トロとか頼むヤツがゆるか?」

「マイルド・セブン」を吹かし、再び灰を落とす純平…。

「おれがすし屋いったのは、…ずい分小さい頃だから憶えてない」

…良太には、純平の喩え話はちんぷんかんぷんである。

「なら…、今度連れてってやる。常識からゆって、先ずは白身…。たいとかひらめからだろ、…つまりいきなりエッピ💝するなんてのは。…すし屋で、一発目にうに食うよ〜なモンなんだ」

ウエイトレスの女性を呼び…、コーヒ〜のお代わりを頼む良太。

「"恋人として付き合う最低限の条件は、エッピ💝が巧いコトだ…"ってゆってたよな、…お前」

…良太と純平の、コーヒー・カップに順にお代わりが注がれた。

「それは…、音楽でゆえばサビなのさ。その証拠に、おれは人生で初めて一年付き合ってる…。おれは、…彼女に何の不満もない。…エッピ💝しちまうと、粗ばっかり目立ってゆかん」

「セブン・スター」を吹かす良太だが…、味と香りがよくわからない。

「まさかお前、も〜既にエッピ💝してしまったんじゃないだろ〜な良太…?」

コーヒーに、…むせ込む良太。

…「バカゆってんじゃない、まだ一回デートしただけだってのに」

お前と一緒にするなよ…、と良太は心の中でツッコんだ。

「それなら、ゆいんだ…。お前な、…悪いがおれは繰り返すぞ。…女性は、エッピ💝したら必ず飽きる。一度でもエッピ💝したら…、それが関係の終わりの始まりなんだ。だから、貴重な気に入った相手と…。出来るだけ長く愉しみたいなら、…その時を先延ばしにするに限る。…この喩えなら、わかるだろ。メシは…、はらが減ってるからこそ美味い。満腹になってから出されても、も〜これ以上は受けつけん…」

純平は、…ヘビー・スモーカーだったから。…何本も、立て続けに煙草を吹かした。

「ま〜でも…、おれもエッピ💝したいよ」

うつむいて、つぶやく良太…。

「それそれ、…それこそが危険なのさ。…もし、勝美さんに催したらおれの言葉を思い出すんだな。世間の風潮に流されるな…、しかし。おれも、出会った経験が無いからわからんが…。エッピ💝してもあきない相手を、…"愛してる"なんてゆ〜のかも知れん」

…調子の変わらない純平を、まるで悟りを開いた仙人のよ〜だ。と…、良太は想う。

再臨物語again〜春馬町より愛を込めて〜 その15

良太が、レッド・ウィングの赤いブーツを買ってから数日後の夜…。部屋で…、勝美から借りたJazzのカセット・テープを聴いてゆる良太。…すると外から、クラクションの音がする。良太は、…サンダルをつっかけおウチから出た。緑色のコペン、純平である…。

「少し待っててくれ純平…、まだ慣れなくて」

…車の窓が開き、純平が顔を覗かせた。

「よぅ良太何の話だ、…まぁゆいそこに停めてる」

純平は、車を動かして邪魔にならないトコロで停車する…。おウチの玄関に戻った良太は…、買ったばかりの。…レッド・ウィングの赤いブーツに、足を通して靴ひもを結び始めた。レッド・ウィングに限らないが、…一般的にブーツをはくのは。時間がかかる、ましてや初めてならなおさらであろ〜…。別に不器用でもない良太だったが…、結局5分ぐらいかかってしまった。

…「ホントに遅かったな、何してたんだ?」

良太は、…緑のコペンのドアを開けると。車内のライトが灯り、足を挿し入れる…。

「これだよ…、純平ど〜想う?」

…シートにもたれかかる良太、純平は初め何のコトだかわからないよ〜であったが。良太は、…足先を指で差し示した。

「なかなカッコゆいじゃないか、ど〜した勝美さんか…?」

わざわざ見てもらったモノの…、実際には照れくさい良太。

…「そ〜だよ、少しはカッコつけないとと想って」

純平は大笑いする、…ひとしきり笑うと真面目な顔に戻ってこ〜ゆった。

「それでゆいんだよ、お前にも遂に春が訪れたってワケだ…」

車を発車させる純平…、灯りは消えレッド・ウィングの赤いブーツも闇に紛れる。

…「悪いケド、ちょっとこれかけるぞ」

良太は、カー・オーディオに手を伸ばし…。純平のかけてゆたフィッシュマンズを止めて…、勝美から借りたカセット・テープをセットして再生ボタンを押した。

「何だよこれ、…Jazzじゃないか。お前、音楽に大して興味無かったろ〜…?」

純平に…、勝美のお父さんがJazzを好きで。…今度、カセット・テープを作ってもらうお話などをする。

「良太、…お前ゆい娘見つけたな」

緑のコペンは、夜の16号を下っていく…。二人は…、Jazzの調べをバックに。…いつものよ〜に、世の中がいかに退屈でツまらないか?ありとあらゆる言葉で、…こきおろした。とある24時間営業の、ファミリー・レストランまでやって来ると…。純平は駐車場に停車させ…、二人は中に入る。…大して美味しくもない、お代わり自由のコーヒーを。二人分注文すると、…良太は「セブン・スター」。純平は「マイルド・セブン」に、それぞれ火を点ける…。

「良太おれも面白いモノを持ってきてる…、見せてやるよ」

…バッグから、一冊の書籍を取り出しす純平。良太が目をやると、…タイトルは「Trainspotting」とあった。

「おっよさそ〜じゃないか、読ませてくれ…」

オレンジ地に白抜きの…、タイトル・ロゴ。…びしょ濡れになった、ユアン・マクレガー演じるマーク・レントン。何もかもが、…良太の心を惹く。

「最近まで、映画が渋谷で演ってたらしいんだが…。それはも〜終わっちまったんだ…、だがうわさじゃこの原作の方が。…断然面白いらしい、悪いが貸してはやれん。おれが、…まだ読み終わってないからな。もし読みたければ、おれが読み終わるまで待つか…。そ〜じゃなければ…、自分で買ってくれ」

…パラパラと、ページをめくる良太。マーク・レントン達の、…先ゆきの見えない未来と。それを、ドラッグで紛らわすしかない現実…。良太は…、自分の現在の状況をそこに見て取った。

 

 

再臨物語again〜春馬町より愛を込めて〜 その14

「ど〜しょうど〜しょう…、やっぱカッコゆい」

一年ぐらい前に、エッチ💘なグラビア目当てで…。何の気なしに1号だけ買った、…週刊プレイ・ボーイのあるページを。…繰り返し繰り返し、熱心に眺める良太。

「勝美さん…、悦んでくれるかな?」

そのページには、当時流行したアメリカン・カジュアルの…。ファッション・スタイルが紹介されていて、…その中の、あるアイテムがことさらに良太の心を惹いた。

…「よし決めたぞ、今すぐ買いにゆこ〜」

良太には…、お金が無いから。全身の装いを、全て変えるのは不可能である…。だったら、…せめてこの一点だけでもとゆ〜思惑だった。

…お財布を開けて、キャッシュ・カードが入ってるのを確認すると。ジーンズとよそゆきのTシャツに着替え…、自転車に乗って駅前に漕ぎ出す。

「緊張する、うわ〜…」

駅前の月極駐輪場に自転車を停めると、…銀行に向かった。…途中少しでも緊張をほぐそ〜と、コンビニで「お〜いお茶」を購入する。

「いよいよだぞ…、覚悟を決めるんだ」

銀行に入り、A.T.M.の前に立つと…。ディスペンサーに、…キャッシュ・カードを挿入し。…暗証番号を入力した。

(3万円…、と)

3万円は、良太の貯金総額の半分をゆうに超える…。

「さぁゆくんだ、…も〜あと戻りは出来ないんだから」

…3万円を大切にお財布にしまうと、そのまま姫宮駅から。上りの各駅停車に乗り込み…、目的地を目指した。

「良太、ど〜したの大丈夫…?急に、…そんなに高いモノを買って」

東武伊勢崎線に揺られながら、良太の頭には。このお買いモノの結果を…、心配するお母さんの顔が思い浮かんでゆる。

電車が春日部駅に到着すると、一度ホームに降り…。改めて、…快速に乗り換えた。

…お袋に、ど〜言い訳したモノか。良太には…、考えがつかなかい。わかりやすく説明すれば、"恋人が出来てカッコつけたかったから"となるだろ〜が…。それでは、…何も良太の心情に触れてはいない。

…(うまくゆえないけれど、これは勝美さんの為なんだ)

良太としたら…、そこを汲んでもらいたいのだ。だがそれをゆったら、お袋は…。

「も〜少し安い"何か"を、…プレゼントしてあげたら?…贈りモノは、金額じゃないのよ」

とか何とかゆ〜であろ〜…、良太が自分なりに考えた「これは勝美さんの為なんだ」、とはこ〜ゆう考え方である…。

「自分がカッコゆくあるコトで、…少しでも勝美さんに満足してもらいたい」

…だが、良太はそれを敢えて口にはしなかった。それを口にすれば…、まるで自分が偽善者になったよ〜な気がするからである。

車窓から覗く、外の景色は…。建物の密度が一気に高まる、…電車は既に東京都を走っているのだ。

…(お袋と付き合い始めた時、親父は一体ど〜したろ〜?)

親父は…、男親だから良太の買いモノごときに。口出しなどしない、それはともかく…。親父には、…これとゆって趣味らしい「何か」はなく。…せいぜいお仕事のあとに、お気に入りのウィスキー。マッカランの12年を…、ロックでちびちびやるだけであろ〜。

「親父がこれまでに飲んだお酒の方が、余程高いさ…」

良太は、…上野駅で下車した。…駅から出ると、夕暮れの上野駅周辺は。お客さんを呼び込む声や外国人観光客など…、雑多ながら独特の活気がある。上野の地理について、何の知識もほとんど持たない良太であったが…。目的地の店舗は、…上野でも割と大きくそのうえ。…何軒か存在していたから、適当に人ごみに流されながら。歩くウチに…、程なく辿り着いた。

「いらっしゃいませ〜、店頭に出てゆなくてもサイズは在庫にもありますから…」

そ〜良太の目的地とは、…ABCマートである。…お店の中をうろついて、お目当ての品を見つける良太。ドキドキしながら手に取り…、眺めてゆるとさすがの貫禄だ。

「レッド・ウイングのブーツは、作りが大きいですから…。少し小さめでも、…全然はけますよ」

…迷ってると思われたのだろ〜、魅入られている良太に店員さんが声をかける。そ〜なのだ…、良太が一大決心で買い求めに。わざわざ上野まで来たのは、レッド・ウイングの赤いブーツを買う為なのだから…。良太は、…その店員さんにサイズを合わせてもらい。…レジで3万円差し出す、そして2、3千円のお釣りを受け取ると。片手にABCマートの…、白く縁取られた黄色いビニールの袋を下げ。日も暮れかかってゆる、上野のあとにする…。これが果たして成功なのか、…良太にはわからない。…しかし、良太の胸には確かな喜びが芽生えていた。

 

 

 

 

再臨物語again〜春馬町より愛を込めて〜 その13

…モス・バーガーを出てからも、特にするコトは無かったから。良太は勝美と共に、…一度ゲーム・センターに入ったっ切り。あとはひたすら、大宮中を歩き回ってはおしゃべりして過ごした…。

「じゃ勝美さん…、おれそろそろ帰るよ。…カセット・テープ、ありがとね」

17:00を回って、…良太は勝美に告げる。

「そ〜ですね、私達浪人生だから勉強もしないと…」

そ〜ゆう勝美は…、少し残念そ〜だ。

…「次、ど〜しょう?来週もまた会える、…どこへゆくかは適当に考えとくから」

ふし目がちにうなずいて、勝美も帰路に着いた…。

東武野田線大宮駅のホームに立つ…、良太は大々々満足間違いない。

…「いや〜、勝美さん可愛かったなぁ」

今日一日、…良太は勝美と特にこれとゆったコトな何もしていない。とにかく大宮を歩きに歩き、話し続けただけだ…。ただそれだけに過ぎなかったが…、勝美と過ごす時間は何にも代え難いと想う良太である。…良太は、勝美から借りたJazzのカセット・テープを。ウォーク・マンにセットすると、…再生ボタンを押す。途端にイヤフォンから流れ出す、華麗な即興演奏…。

「こりゃあすごい…、なんだかわからないけれども」

…文章の表現上、"即興演奏"と書かせていただいたが。今の良太には、…何の楽器なのかどころか。それが即興演奏であるのも、わかってはゆない…。何もわからないから…、面白いともツまらないともゆえずそのままかけ続けた。

…(おれはよかったケド、勝美さんにとってはど〜だったんだろ?)

Jazzの調べに身を委ねながら、…東武野田線に揺られてるウチ。ど〜しても、それが気になって頭から離れない…。

(おれがゆいだけじゃ…、"お付き合い"とはゆえない)

…今こ〜して聴いてるJazzも、勝美さんからもたらされたモノだし。勝美さんはお料理だって出来る、…今度はお弁当作ってくれるってゆってた。

(勝美さんに与えられるモノが、おれには何もない…)

ぼうようと…、良太は考える。…しばらくカセット・テープを聴き続けるウチ、このJazzとゆ〜音楽は。既存のポップスとは、…少々曲の構成が異なっているコトに気がついた。

「これ、サビはどこなんだろ〜…?」

良太がこれまで聴いて来た音楽では…、曲の後半に。…必ず、思わず口ずさみたくなるキャッチーなメロディが訪れる。そこがうまく盛りあがれば、…その曲は購入するのだ。そ〜思い込んでいた良太は、少なかず困惑する…。さらにゆえば…、ヴォーカルが入ってないから。…カセットテープの・ケースのインデックスに、曲名とミュージシャンさんの名前が書かれてゆても。現在の演奏が、…誰のどの曲なのかさっぱりわからなかった。

(だけど、Jazzだ…)

良太には…、確信がある。…この何にもやる気を見出せない、終わりのない退屈に。終止符を打つのは、…きっとJazzなのだ。勝美が、「Jazzのカセット・テープ」とゆ〜言葉を口にした時…。良太の心に…、そ〜さっと閃いたのだから。…とにもかくにも、とっかかりはこの一本のカセット・テープだ。これを繰り返し聴き続けて、…理解するコト。それといずれは、も〜少し気の利いたトコロに…。勝美さんを…、ご案内するコトだろ〜。…自分の心が少しずつ燃え始めてゆるのに、まだ気がつかない良太である。

再臨物語again〜春馬町より愛を込めて〜 その12

「おれはら減っちゃったな…、昼めし食お〜よ勝美さん。何か、食べたいモノある…?」

そごうの書籍売り場をあとにした二人は、…特にあてがあったワケではないから。…おしゃべりしながら、大宮の街をぶらぶらしていた。

「じゃあ…、モス・バーガーにしません?私、好きなんです…」

良太は何でもよかったから、…勝美の案内でモス・バーガーへと向かう。

…「モス・バーガー着いたら、良太さん何食べます?」

歩きながら…、良太に質問する勝美。

「おれ、モス・バーガー入ったコトないんだ…。いつも、…ミスター・ドーナツなの」

…勝美は、足を止めて振り返った。

「えっ…、それなら。ミスター・ドーナツでも、構わないですよ…」

頭を、…ぽりぽりかく良太。

…「いや、味とかで選んでるワケじゃないんだ。ミスター・ドーナツって…、コーヒーおかわり自由だから。煙草吹かしながら、何時間も居座るのにちょ〜どゆいんだよね…」

良太は、…勝美にモス・バーガーへの道案内を促す。

…「勝美さんの食べたいモノに付き合うよ、おれも初めてで楽しみだしさ」

そこからまた…、しばらく歩きモス・バーガーに入店した。

「てりやきチキン・バーガーが、大好きなんです…。私モス・バーガーではいつも、…てりやきチキン・バーガー食べてるんですから」

…レジ前に掲示してある、メニュー表とにらめっこする良太。

「じゃあ…、モス・チーズバーガーにしよ〜っと。この、オニ・ポテって美味そ〜だね…」

二人はレジに並んで、…それぞれのお金を支払い。…番号札を受け取ると、テーブルの席に座る。

「モス・バーガーのお店って…、何となくおシャレだなぁ。おれ、少し緊張する…」

良太は、…そ〜笑って。ポケットから「セブン・スター」を取り出すと、火を点けて吹かした。…しばらく勝美と、二人でお話をしてるウチに。やがて…、注文の品がテーブルに届けられる…。

「あっ何これ、…美味いジャン」

…一口かじつりついて、思わずもらす良太。

「よかった…、私もモス・バーガーは美味しいと想うんです。ちょっと、お高めですケド…」

勝美は、…美味しそ〜にてりやきチキン・バーガーをほおばった。

…お昼ごはんが済んだあとも、特別にゆくトコロも無かったから。二人は…、そのままモス・バーガーの店内でおしゃべりに興じる。勝美の語る言葉の中で、強く良太の印象に残ったのは…。

「私音楽は、…お父さんから。…Jazzのカセット・テープ作ってもらって、そればっかり聴いてるんですよ」

良太は…、「Jazzを聴く」勝美のその趣味のよさに、新鮮な感動を覚えた…。

「すごいね、…勝美さんJazzわかるんだ」

…恥ずかしそ〜に、勝美は手を振る。

「そんな大したコト…、ありません。ただ、ウチは私が生まれる前から…。お父さんの趣味で、…おウチの中でずっとJazzがかかってただけなんですから」

…良太の心は、「今だぞ」と告げた。

「あのさ…、おれカセット・テープ。自分で買って用意するから、もし手間じゃなかったら…。お父さんに頼んで、…おれの分も作ってもらえないかな?」

…勝美は、共通の話題が出来るコトを悦ぶ。

「もしよかったら…、お試しでお貸ししますよ。確かバッグの中に、一本入ってたハズだから…」

バッグの中から、…カセット・テープを取り出す勝美であった。

 

再臨物語again〜春馬町より愛を込めて〜 その11

…「勝美さん、こんちは」

次の日曜日、…待ち合わせた大宮駅の西口に。待ち合わせの、11:00より20分前には良太は到着していた…。

「こんにちは良太さん…、お元気ですか?」

…勝美は、5分前に到着する。今日は、…良太にとって人生初めてのデートだ。

「おれ、女の子とデートするの初めてなんだ…」

ボーダー・シャツにチノ・パン姿の勝美に…、ちょっとデレッとする良太である。

…「私も、男の人とお付き合いするの初めてだから」

恥ずかしそ〜に、…勝美は口にした。

「どっかゆきたいトコある、おれはどこでも…」

デートとゆ〜モノが…、具体的にどんな感じなのか?…良太にはさっぱりわからない、だから勝美に尋ねてみたのである。

「じゃあ、…私参考書見たいんで。そごうの、書籍売り場にいってもらってゆいですか…?」

歩き出した勝美の…、あとから着いてゆく良太。

…勝美にとって、来やすくてなれた場所がゆいだろ〜と。大宮でのデートを提案した良太だが、…それは逆にゆえば。大宮は勝美のホームなのだから、どこに何があるか…。勝手を知ってるのは…、勝美であって良太ではない。

…「良太さん、どの教科がお得意ですか?」

勝美は、…歩きながら良太に浪人生らしい質問をした。

「そりゃ、日本史だね…。おれ日本史なら…、偏差値65超えられるから」

…日曜日のお昼少し前だから、大宮駅東口付近はすごい人出である。

「それはすごいですね、…私日本史苦手なんですよ」

困ったよ〜に、笑う勝美…。

「日本史ってさ…、全部憶えよ〜とするとタイヘンだけど。…物語の粗筋つかまえるのと同じで。ストーリーなんだ、…ざっくりと大まかな流れを。逆に、勝美さんは何が得意科目なの…?」

二人は、そごうの店内を…。縦に並んで…、エスカレーターで登った。

…「私は、英語かな。もし英語だけで、…受験出来たらラクなんですケド」

勝美と話してゆると、少し緊張がほぐれて来る良太…。勝美さんはど〜なんだろ〜か…、と良太は想う。

…「い〜なぁ勝美さん、おれ英語全然わかんないよ。アレだと、…偏差値40に届かないモン」

書籍売り場にやって来る二人、どこに何があるか…。わかっている勝美は…、真っ直ぐ目的地に向かった。

…「ほら、英語ってこ〜してても。普段使わないジャン、…火星から送られて来るメッセージみたい感じってゆ〜か」

一冊一冊、本棚から…。英語の参考書を取り出して、…チェックする勝美。

…「良太さん、さっき"日本史はストーリーだ"。そ〜仰ったじゃないですか…、英語も同じ。ただ言葉のルールが違うだけで、そのイメージさえつかめれば…」

あぁ…、勝美の言葉が心地よいな。…良太はそ〜想った、気を遣ってもらえるのが何よりありがたい。

「そ〜なのかも、…ゆわれてみれば。…英語だって、同じ人間が話してるんだから。何かしら…、伝わるモノがあるんだろ〜ね」

…遂に、良太にとっても勝美にとっても。「何か」が、…転がり始めた瞬間なのだった。

 

再臨物語again〜春馬町より愛を込めて〜 その10

「うわっ、クレリック死んじゃった…。ど〜しよ…、このままじゃ全滅だ」

…「来福亭」で、純平と飲んでからまた数日。良太が勝美に愛を告白してから、…結局一週間が過ぎていた。

「ど〜やって、地上まで戻ったモノか…?このままじゃ…、全て無に帰すコトになる」

…勝美のついては、も〜諦めた良太である。フられた心の傷を癒すべく、…熱心に「ウィザードリィⅤ」にのめり込んだ。

「お電話よ、良太…」

何だまた純平か…、と良太は思う。…のんきなモノだ、こちらはそれドコロではない。「ウィザードリィⅤ」は、…オート・セーブだから全滅するとそこで記録されてしまい。やり直すには、も〜一度冒険者を育てあげ。全滅した地点から、死んだ冒険者を一人づつ引きあげなくてはならないのだ…。つまり…、事実上の一からやり直しである。

…「今日は初めての方、鈴代さんですって」

えっと、…良太は驚き。慌てて部屋を出ると、階段を駆け降りた…。

「良太…、騒がしいぞ静かにしろ」

…お風呂あがりに、居間でT.V.ニュースを眺めてる。お父さんから注意される、…良太はドキドキしながら受話器を耳に当てた。

「もしもし良太です、勝美さん…?」

受話器から…、ぼそぼそと「もしもし」が聞こえる。…しかし、勝美はそれ以上何もゆわない。

(あっ、…これはフられるパターンだぞ)

要するに、勝美さんは真面目な娘だから…。無視したりせず…、ちゃ〜んと連絡をくれたケド。…それは傷つけたくないからで、穏当なゆい回しを見つけよ〜としてるに違いない。

(ど〜せなら、…一思いにトドめを)

こ〜なってしまえば、もはや勝美さんより…。良太にとっては…、「ウィザードリィⅤ」のパーティである。…1ヶ月間毎日遊んで、何とかここまで育てたのだから。

「私、…あの」

良太は、下っぱらに力を込めた…。なんのなんの…、フられるぐらいお安い御用です。…ど〜せ時間さえ経てば、全ては忘れられる。

「良太さんとのお付き合いを、…お引き受けしよ〜と想うんです」

「えっ、マジで…?」

思わず口から出た言葉を…、反省する良太。

…「ごめん、へんなんゆっちゃった。でも本当にゆいの、…おれなんかで」

勝美は、またしても黙り込んでしまった…。これはど〜やら…、ホントに純平のゆった通りらしい。

…「良太さん、優しそ〜だから」

勝美の声は、…震えている。良太は取り敢えず、次の日曜日に…。デートする約束を取りつけ…、受話器を元の場所に置いた。

…「ちょっと、コンビニまでゆって来るわ」

コンビニまで自転車を走らせ、…お気に入りの「サッポロ黒ラベル」の500mℓ缶を購入し部屋に戻る。

(これは、ドえらい事態になってしまった…)

「サッポロ黒ラベル」500mℓ缶の…、プルタブをプシュッと開け。…1/4ぐらい、ゴクゴクと飲み干した。そして、…「セブン・スター」に火を点け一息吹かす。とにかく、一度落ち着かなくては…。とにもかくにも…、良太には来週の日曜日が。…楽しみでしよ〜がなかった、早くやって来て欲しい。またむずむずするモノを感じる、…「今晩もだな」良太は、「サッポロ黒ラベル」を今度は半分ぐらいまで飲ったのである…。