「う〜ん…、このままおれはど〜なってしまうのだろ〜?」
良太にだって、将来の不安がなかったワケではない…。こ〜して姫宮駅のベンチに一人座っていると、…もやもやとイヤな考えが湧きあがってくる。…高校に通ってる間、あまりその後の進路について真剣には考えなかった。それより…、目の前の部活動がとにかく熱かったのだから。
「今のおれは、ハッキリゆってスーパー・ファミコンしかしてないし…」
高校を卒業してから、…スーパー・ファミコンを。…近所のファミコン・ショップで、中古ので購入した良太であった。世の中では…、既にプレイ・ステーションが主流となり。それに対抗して、セガがドリーム・キャストをぶつけよ〜としてゆた頃である…。
「スーパー・ファミコン、…面白いケド"何か"意味あんのかな?」
…良太も、もろにファミコン世代だったから。幼い頃は…、周りの友達と一緒に。ファミコンで遊びまくった、それがちょ〜ど中学に入るのと前後して…。スーパー・ファミコンが発売されたのであるが、…良太は柔道部に入り。…それが青春そのモノとなってしまったので、あまり縁が無かったのだ。
と良太は、心の中で決めている…。スーパー・ファミコンを中古で買って、…初めて遊んだのはドラゴン・クエストⅤだった。…それを皮切りに、この歳になって今更R.P.G.の面白さにのめり込み。勉強そっちのけで…、ずるずる遊び続けている。
「このまま、いつまでも電車が来なくて…。自分一人が、…姫宮駅に取り残されるよ〜に。おれの人生も…、このままくすぶり続けるんではなかろ〜か?」
そ〜思い始めた辺りで、よ〜やく東武伊勢崎線の上りが到着した…。まるで眠るよ〜に、…巡り巡った思考からハッと覚め。…バック・パックを手にすると、良太は電車に乗り込んだ。
北春日部駅を越えると…、春日部駅で。そこで東武野田線に乗り換える、すると耳に挿し込んだイヤフォンから…。ちょ〜ど、…奥田民生さんの「さすらい」がかかる。
…「おれの心は、現在さすらってるんだ」
すると目の前の風景の意味が…、何もかも変わり。ただ退屈に続くだけだった日常に、何かしらの希望の火が灯るよ〜な気がする…。
(いやそんなに大したコトはないよ、…そんな風に人はゆ〜だろ〜)
…良太にも、当たり前だがそんなに自信があったワケではない。実際C.D.のジャケットに映る…、奥田民生さんはいつでもカッコよかったが。自分は決してそ〜ではない、毎日スーパー・ファミコンしてるただの浪人生だ…。それでも「さすらい」のメロディにのせて、…東武野田線上りの車窓から覗くいつもと違う風景は。
…「これだって、小さなさすらいじゃないか」
と良太の心を慰めたのである。
まだ今の良太には…、音楽の知識はほとんどない。スーパー・ファミコンのスイッチが、入ってゆない時は…。良太は、…部屋でFMラジオを流してたのだ。…そこから流れて来る曲を、気に入れば年に一枚か二枚程度。アルバムを購入する…、その程度の音楽への思い入れである。
カセット・テープのウォーク・マンからかかってゆた、「さすらい」はとっくに終わってゆた…。しかし、…良太はこれから自分は。…本当の幸福を求めて、さすらうだろ〜と。自分の将来を予感している…、それでもいつかどこかに辿り着くだろ〜と。もしかすると、それは良太の単なる思い込みなのかも知れないが…。心のどこかに、…余裕のよ〜な「何か」があるのだ。