夜ごはんのすき焼きの買い出しに、…近くのセミルの町まで結局3人でゆきます。
…テントを張ったキャンプまで戻って来ると、戦士クリムは早速お鍋でお野菜をぐつぐつ煮込み始めました。その間神官マルミと魔女ケレナは…、お茶を囲んでいます。神官マルミはティー・バッグから淹れた紅茶に、輪切りにしたレモンを浮かべ…。魔女ケレナは、…自分でドリップしたブラック・コーヒーでした。…コーヒーにとてもうるさい魔女ケレナは、絶対に自分で淹れたコーヒーしか口にしません。折りたたみ式のイスに座って向かい合う2人ですが…、お互い何も口にしないのです。そんな2人を気にして、戦士クリムは少しヤキモキでした…。
「何でもゆいのに、…何か愉しいお話でもすればなぁ」
…不意に、神官マルミが口を開きます。
「魔女さん…、いえケレナさんがいけないんですよ。初めっから、私を魔法で援護して下されば…。私だって、…何もあんな風に意地を張る必要なかったんですから」
…イラ立って、魔女ケレナはマグカップを音を立てておきました。
「何アンタ…、今さらマジウザッ!!済んだコトを、わざわざむし返さなくてもよくない…?普段のアンタの態度がいけないのさ、…これにこりておとなしくするんだね」
…神官マルミも魔女ケレナも、お互いの何もかもが気に入りません。両者の緊張は…、もはやピークに達してゆます。
「は〜いお待たせ〜、クリム特製のすき焼きだよ…!」
そこへ戦士クリムが両手にミトンをはめて、…お野菜の煮えたったお鍋を運んで来ました。…色鮮やかなお野菜やお豆腐にお出汁が染み込んで、と〜っても美味しそ〜に染まっています。テキパキ指示を出す…、戦士クリム。
「マルミは卵、ケレナはお肉の準備して…」
パチパチ燃えてゆる焚き火のうえの台座にアツアツのお鍋をくべると、…戦士クリムは胸を張って誇らし気に語りました。
…「2人共、今日のお肉は何と黒毛和牛!!奮発したんだよ…、高かったんだから。さぁ食べよ、あお肉の心配はしなくてゆいよ…。3kgは買ってあるから、…ドンドン食べて!」
…3人それぞれに卵を割って、先ずはお野菜に手を伸ばします。
「あら…、美味しい」
「ん、イケるね…」
神官マルミと魔女ケレナは、…同時に感想をもらしました。
…「そ〜、そりゃ〜よかった。ぼくはお料理は…、お鍋と煮物しか出来ないんだ。でもそれだけは、お母さんからしっかり教わったから…。さぁさぁお肉も食べてみて、…霜降りで脂もしっかり入ってるからさ」
…そ〜いうと戦士クリムは、ロース肉を一度に3枚ツまんでペロリとたいらげます。戦士クリムのすき焼きは一口食べるとビックリする…、そんな美味しさではありません。しかし食べてるウチに心がジンワリ温まる、お母さんからの愛情がツまった味わいでした…。
「クリムさん、…卵一つ下さい」
…「あ、アタシも、一個取って」
神官マルミも魔女ケレナも、黙ってすき焼きを口にしています…。同じお鍋からすき焼きを囲んでるウチに、…2人はトゲトゲしてるのがバカバカしくなって来たのでした。…やがて戦士クリムが、お肉の最後の一切れをツまみあげると。神官マルミは…、うつむいたままボソボソ口にします。
「あの、ごめなさいケレナさん…。私が、…いけなかったんです」
…魔女ケレナもソッポを向いてゆますが、素っ気なくいいました。
「ま…、アタシも大人気なかったよね。天才なのに、ごめんごめん…」
2人の表情を交互にのぞき込むと、…戦士クリムは太陽が輝くよ〜な笑顔で宣言します。
…「よしよし、これでマルミもケレナも仲直りだね!!"すき焼き大作戦"…、大成功!」
ど〜やら戦士クリムの秘密の作戦は、うまくゆったよ〜でした…。